*驚愕
「ゴジラに、なる。このまま、では、最悪の、ゴジラ、にっ」
「最悪? なぜ」
いいかけた省次が絶句する。ほんの少し目を離した間に、英理加の上体は胴までがゴジラの体表に変じていたのだ。そんな黒き浸食を拒むかのように己が胴に爪を立てつつ身をよじる英理加。だが巌の体表は緑の鱗のごとき葉を突き上げ露出しつつ、己が領域をじわじわ上へと広げるのをやめない。そんな中でなお必死の形相で絞り出されるその言葉。
「ゴジラが、水爆の、苦悶を、文明の、臭いで、人間と、結びつけて、いる、以上」
英理加も山根博士の本を読んでいたのを省次は察した。彼女がゴジラを研究していた以上、当然のことだった。だが、
「癒やせない、苦悶は、決して、怒りを、鎮めない。ゴジラは、だから、繰り返し、暴れる。終わる、ことな、ぐぁあっ!」
ああ、出現から70年にもなろうという歳月にもかかわらず、ゴジラが繰り返し来襲してきたわけがそんなものだったなどと、山根博士でさえ想像したことはあっただろうか! 刊行された僅か1冊に納められていた随筆の中には、少なくともこんなことを窺わせるものはなかった。ゴジラをそんな衝動に駆り立てずにおかぬ無限の苦悶、それさえはるかに上回る苦悶に、ビオランテという姿に溶け合った母娘も苛まれているのを目の当たりにしているのだとの実感に、ゴジラと人ならざる身となった母娘の2つの姿が丸ごと輪郭を失った。溢れ出す涙にも収まりきれない思いをもはや堪えられず、本来の姿を失ったものたちのひとかたまりの姿に省次は叫ぶ!
「なぜ、なぜあなたたちがこんな目に!」
瞬間、ヘルメットを介しのしかかる機龍の焦りと怒りに驚愕としか呼び得ぬものが入り交じる!
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コメント
もも
2021年 03月14日 05:35
英理加ちゃん 可哀想
ふしじろ もひと
2021年 03月14日 06:49
もも様おはようございます。
ただただ悲惨です……。