＜『史上最低の侵略』その５８＞
Ａ

take-58

December 7th 20:00

　アリーナのミッションルームには、光成補佐官の命令で調査に出ているタカフミを除く全員が揃っていた。目下の警戒レベルが最低ということもあり、程よくダレたミッションルームの空気の中、皆は光成補佐官が淹れたお茶と昼間非番で映画を見に行っていたサヤの手土産のマドレーヌを摘まんでいた。
　と、そこへ情報部から、テレビに大変なモノが映っているとの連絡が入り、サヤがテレビをつけチャンネルをセットした。
「『突撃！２４時！！』じゃない」
　フリーランスの熱血アナウンサー織田幸村による、情報バラエティ。その織田アナウンサーにマイクを突き付けられているのは、
「タカフミさん！」
「ポンポス星人じゃない！　何あれ、雀落としに引っ掛かってるの？」
　呆れ返るメンバーたちだったが、夢野シティのブランド米「夢ひかり」で握ったむすびを手にベラベラ喋るボースの話に、ミッションルームの空気が冷凍怪獣でも出たかのごとく一気に凍ってゆく！
「……うっ！　く、倉澤くん。急に、脚がっ！」
「補佐官、それはいけません！　急いで医療部へ！」
「ね、ねえレオン。カマエルのエンジンブースター、どうも最近ノイズが多くて」
「そ、それは大変です。では直ぐに技術部へ！」
「そ、ソラりん。たしか今日パイロット訓練、久々に教えてくれるんじゃ？」
「そ、そうでしたね。行きましょう。ヒトミさん」
“ソラっ！　逃げろっ！”

　たちまち黒鋼のワルキューレただ一人を残しカラになったミッションルーム。それから二時間後、織田アナウンサーに連れられ帰ってきたタカフミを待っていたのは、３月まで給料半分カットのお達しだった。




December 31st 12:00

「では、お先に失礼します。よい年を迎えてください」
「ソラ、お土産忘れないでよ」
　ソラはテラと共に宮島で新年を迎えるため、ミッションルームを後にした。テラの病状からすると旅など本来は危険なのだが、本人が行きたい！　と言うので、そうすることになったのだ。




December 31st 22:00

「やれやれ。新年はお祓いでもして貰うかのぉ」
「ほんと災難だったわね」
　旧湾岸通のキャバレー『ＴＡＴＯＯ』
　そのカウンターに留まって、ノンアルコールビールを飲みつつ、溜め息つくタカフミに、お通しの年越し蕎麦をすすめる、オーナーのジュディ。
「ま、よかったじゃない。濡れ衣だってわかって、給料減額も来月だけになったんだから」
「まあの」
　タカフミが『突撃！２４時！』の織田アナウンサーに引き摺られてアリーナへ引き返した時、『カナリー』の手前まで出ていた真柴号令に畏れを為して逃げ出したヘナチョコの様子に加えて、アリーナへネタを仕込みに来ていたトップ屋井上からの情報で、タカフミもまた被害者だと全国ネットでオンエアされた。
　ステージでは、ＦＡＫＥによる、一人紅白歌合戦だ。
　ようやく澱んだ平穏さを取り戻した旧湾岸通の宇宙人達。
　ガラクタも一昨日の夕方に全て片づき、懐もあたたかいためか、『ＴＡＴＯＯ』も賑わっていた。




December 31st 23:00

「ホントに１００円でいいのか」
「５円お釣りなど、ないはずだ」
　旧湾岸通に程近い、小さな蕎麦屋『芭蕉』。
　小さな店だが、蕎麦好きな老夫婦が長らく営業していた店だ。
「長年やってきましたが、もう年で、体が効かなくてね。満足のいく蕎麦を打てなくなりましたからね。今日は最後の営業なんです」
「だから長年のお礼に。よいご縁がありますことをね。そう。お兄さん達、いい年を迎えてくださいね」
　老婦人が差し出したのは、お餅だった。

「ありがとうございました！」
　店先で深々とお辞儀をする老夫婦に背を向ける、銀髪サングラス。
「兄者。これは作らねば！」
「大学にある材料で出来るはずだ！」
　夢野市立大学工学部の名物講師は部屋に急いだ。




December 31st 23:50

「ん。じゃあ、ぼちぼち夢野天満宮でも行ってくるわ」
　ＦＡＫＥによる、五時間にわたる一人紅白歌合戦も、アンコールとなった。
　彼が激愛するグレート演歌シンガー、サブロー・キタジマの代表曲『函館の女』を聞きながら、タカフミは席を立った。
「タカフミ、いい年を迎えてね」
「おう！」

　大晦日だけはシティバスも３０分に一本程度だが動いている。
　停留所まで歩いていたタカフミの耳に、老いても怒気を含んだ叫びが聞こえてきた。
「食い逃げだあーっ！」
　その声にタカフミが右手の路地を覗くと、ああ、蒸籠を被ったヘナチョコ五人組が、闇深い旧湾岸通の更に深い闇へと走っていくではないか！
「ん。見なかったことにしよ……」
　タカフミが溜め息ついた時、夢野シティの沖合に大きな花火が上がったのだった。


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Epilogue


「兄さん、今年もよろしくね」
「テラも春から大学生だな。いい一年にしような」
「うん」
　新年を迎えて、初詣のため、扉を開いた厳島神社に、入っていくソラとテラ。
　ゼロは雪が舞う中も、煌々と輝く月の向こうにある、ウルトラの星を眺めていた。




……そして、Ｂ・ｉ・Ｒ・Ｄジャパン号令にしてアタックチームリーダーである真柴月夜号令は、ニューヨークにある総本部へ、専用機で向かっていた。
「総号令も余計なことを。労いのパーティーよりは休みがいいんだけどね」
　小さくボヤキながら、持ち込み鞄から出すのは、赤毛の可愛い、男の子の人形だ。
「テラちゃん、今年もよろしくね！」
　赤毛の人形に軽くキスをする。




「どうしたんだい。テラ」
「いまツクヨさんが……？　ううん、何でもない。さ、兄さん。御神籤引こうよ」
　ソラとテラ、両親が『カストルとポルックス』と呼んだ、仲良しな兄弟。二人はいつも、互いを照らしあっている。
　そして、その光はソラの相棒であるゼロにも、新しい変化をもたらしてもいるのだ。


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エンドロール

スタッフ

原作・脚本

“ＺＥＲＯ Another BALLAD”
綾華☆☆

音楽
岡崎司

主題歌
オープニングテーマ
「ヤリタイコト」泉見洋平
エンディングテーマ
「函館の女」ＦＡＫＥ


キャスト

天河ヨハネ碧宙…泉見洋平

天河フランツ大地…ウエンツ瑛士

ウルトラマンゼロ（声）…宮野真守

真柴月夜…湖月わたる
風音沙弥…稲森いずみ
日野枝孝史…山内圭哉

倉澤稔啓…佐々木蔵之介
鈴屋仁美…映美くらら
岩重レオン…松重豊

七浦海翠…檀れい

光成匠号令補佐官…國村準

サロメ星人オスカー…城田優
サロメ星人ドリアン…城田純

ポンポス星人ボース…古田新太
ポンポス星人オース…橋本じゅん
ポンポス星人メース…高田聖子
ポンポス星人ドース…粟根まこと
ポンポス星人ミース…山本カナコ

星宮克美夢野市長（メフィラス星人ラーダ）…平幹二朗
南雲龍彦筆頭秘書（ミステリー星人カディシュ）…草刈正雄

ジュディ寺尾…研ナオコ



ナレーション…嵯川哲朗

日比野未来・ウルトラマンメビウス…五十嵐隼士

アルハイム・Ｈ・マテウス…伊武雅刀

THANK YOU FOR ALL


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　旧湾岸通に程近い、古いマンション。
　その一室で一心不乱に設計図に取り組む、銀髪サングラスの双子。
「兄者、あの蕎麦屋、潰すわけにはゆかぬな！　いつも売れ残って捨てる訳にはいかないからと、我らに餅や握り飯をくれた」
「かけなのに、若いんだから頑張りなさいと、きつねをサービスしてくれた。大恩あるあの蕎麦屋、断じて潰したりさせぬ！」
　設計図には予算の都合で諦めた、ウルトラの父型ロボットを縮小改造した『蕎麦屋のケンちゃん』がデザインされていた。


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　そして旧湾岸通、本丸地区を駆ける五つの影。
「ああカナリーのケツネ、あの出汁！」
「サクサクの唐揚げ！　焼き肉の塊！」
「コッテリした鯖に絡む、あの味噌！」
「ツヤッツヤなご飯に海苔に梅干し！」
「よおっし皆の者！　今年こそなにがなんでもアニキ様を隊長にしてさしあげるのだぁあっ！」
「えいえいおー！！」
　またしてもボルテージが上がる、ヘナチョコ五人組。


……言い飽きたけど、やはりナレーションは言いますよ。

　ポンポス星人よ。
　三度の美味い飯にありつくためにも、まともに働け！
　それが安泰な老後にも繋がるのだから。

Ｔｈｅ ＥＮＤ！！







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