<『史上最低の侵略』その56>
A
take-56
December 2nd 08:00
「今日一日くらい休んでも誰も文句は言わんだろう?」
「いえ、不穏な動きが去った訳ではないですから」
医療部の湊リーダーに返したのは、レオンが持参してきたB・i・R・Dスーツに着替えるソラだ。
「……テラ君のことか」
「はい……」
ベテランドクターである湊医療部リーダーは、何度もこうしたことに遭遇していた。家族がどれほど厳しい症状だろうと、闘病する当人以外は普通に生きていかねばならない。
「朝食を食べたら、ミッションルームへ戻ります」
スカーフを巻くと、ソラはベッドサイドの椅子から立ち上がった。彼は怪獣災害と戦うB・i・R・Dジャパンアタックチームの一員であるのみならず、地球の守り手であるゼロの相棒なのだから。
『カナリー』で朝食を取っていたら、やはり皆の話題はハリウッドスターの離婚などでなく、昨日の仁義も勝者もなにもないガラクタのボタ山だけが残ったあの戦いの話ばかりだった。
「あら、ソラ。おはよう」
コーヒーとお湯のポットを手に給司する本村梓生活部リーダーが朝食のジャーマンソーセージドッグセットを食べているソラに声をかける。
「あ、梓グレートママ。何だか凄い話になってますね」
コーヒーカップを差し出して、おかわりのコーヒーを貰いながら、今朝のトップニュースについて尋ねた。
「夕べ遅くに真柴号令が会見を開いているけどね。完全にあの超ガラクタロボットのネタばかりみたいよ。偽物のゼロやセブンのことや侵略者が逃亡したらしいことなど、これっぽっちも話題にならなかったわ。まあ、マスコミなんてそんなモノよね」
「侵略者が、逃げた?」
「ええ、そうらしいわ。偽物のゼロとセブンが固まったままだけど、遥か彼方へ飛んでいったそうよ。大気圏を出てルナ3Bの横をかすめてから、金星の軌道方面へ飛んで行くのがルナ3Bから確認されたわ。
市役所も大変みたいよ。シティから稲浜地区への湾岸道路がガラクタで埋まっているからバスも通れなくて、今日は市内の学校は全て臨時休校。稲浜地区のスタッフも迂回ルートの混雑で、何人か遅刻してるわ」
近くのテーブルでコーヒーのお代わりの声があったので、梓グレートママはソラの席から離れた。
“偽のオレやセブンが逃げた? ソラ、お前どう思う?”
“わからないな。ただ、あれだけのロボットがまた地球に来たらと思うと、ゾッとする”
“……いや、ソラ。あいつが作った偽物のオレのほうが、遥かに手強かった。まだ昨日の偽のオレなんかヌルかったぜ”
“確かに。サロメ星人なら以前にセブンにも倒されている”
“偽物とはいえ、インペライザーとの連戦だ。お前もよくやったぜ”
“確かにあいつじゃなくてよかった。あいつならこの程度ではすまない”
ゼロも頷く。
あいつ……並行世界の地球を滅ぼし宇宙から生命を消そうとする、闇に舞う白い孔雀のような悪魔、マシンナーズ・ロード。
徹底して命を憎悪するその狙いはまだわからない。
だが、もし偽物のゼロとセブンを送り込んだのがあいつだったら、ひたすら執拗にゼロとソラを追い込み仕留めていただろう。巨大ガラクタロボットなぞ一瞬で蹴散らしていたことも、わかりきっている。
ソラは最後に残ったリンゴをかじって席を立った。しばらくはゼロをサポートするメビウスも地球にはいない。
自分達で気を引き締めてやっていくしかないのだ。
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December 2nd 12:30
「七浦さん、貧血がありますね」
「最近仕事も、来週に控えた舞台のリハーサルも忙しくて」
「ダイエットもいいですが、体を労ってあげてくださいね。舞台でヒロインが倒れたら大変ですよ」
昨日、市民図書館の地下シェルターでウミに膝掛けを貸してくれたのは、市民病院の看護師だった。
シェルターで気を失ったウミは、一旦市民病院まで搬送されたが、過労と貧血という診断で、明日退院となっていた。
助産婦試験を受けるため図書館で勉強していたその看護師は、ウミの食器を片付けて病室を出た。
すると病室の窓から外を見ていたウミの眉間が険しくなる。
「……この気配!」
紛れもなく侵略者だ。しかも近い。
病衣のまま立ち上がろうとするが、目眩にベッドに逆戻りだ。すると
>大丈夫。貴女はもう少し休みなさい<
“ま、マザー! 申し訳ございません”
>いいのよ。でも余りにも無茶をするのは、控えなさい。偽ウルトラ親子は完全に始末しましたよ<
冥王星の城のテラスに一人立つ『マザー』
その手にある小さな鏡には、太陽の引力に吸い寄せられ燃え尽きていく、偽ウルトラ親子が映っていた。
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コメント
もも
2022年 02月14日 11:20
消えましたね
ふしじろ もひと
2022年 02月15日 00:02
もも様こんばんは。
完全に後始末されました(汗)