＊同化

「白神さん、無茶です！」
　背後から叫ぶ若者に、肩越しに振り返った緑の顔が告げる。
「無茶じゃないわ、予定が早まっただけ。見てわからない？　ゴジラ細胞がないことを除けば、私の体組織はもうあの子と同じになってるのよ」
「でも、そのゴジラ細胞がビオランテをあんなふうにさせているんじゃないんですか？　あなたにはなにが起こってるのか、予想だってついてるはずでは」
「予想なんかじゃだめなのよ！　私は知らなければならないの。あの子に自分がなにをしたかを！」
　いいつつ半身になった英理加の方へ、頭をもがれた首の傷から蔦めいた触手を伸ばしくるビオランテ！

　だが省次の目はその一瞬、自分に向いた英理加の目に、見覚えのある表情に釘付けになった。それが湯原教授の見納めとなったあの思い詰めた顔に重なったとたん、若者は白衣の女を引き戻すべくしがみつく！　着衣の下の人のものではありえぬがさついた手触りも、必死の思いを微塵も挫かない！　だがそんな省次ごと絡め取る巨大な蔦の凄まじい力に、なすすべもなく突堤の先へと一気に引きずられてしまう。大蛇に絞められた鼠のごとく押しつけられた白衣から顔も剥がせぬ若人の耳に、そのとき届く潤んだ声。
「覚えている？　君に出会ったとき、私がもう人間ではなくなり始めていたことを。人間だったときにそう扱われなかった私を、手遅れになってから出会った君だけが人の名で呼ぶことをやめなかったのよ。
　つらく感じたことがなかったといったら嘘になるわ。けれど君がそうしてくれたから、私もせめて無駄な犠牲や被害は出さないようにしようと思えたの。
　ありがとう、でも手を放して。このままビオランテに取り込まれたら君は絶対に助からない。君だけは死んでほしくないの」
「だめです白神さん、あっ」

　ろくに息も継げぬままどれほど力を込めようと人の力で怪獣に抗えるはずもなく、引き剥がした若者を突堤に投げ出すや巨大な蔦は己が母を無くした首へと引き寄せる。狂ったように呼び続ける省次の視野の中で、蔦が降ろす細身の姿を迎えるように焦げた首の傷から伸び上がる無数の芽とも根ともつかぬもの。それらが遠い姿を腰まで含み蠢いたとたん、小さなその姿が一気に数倍、数十倍にも膨張し、千切れた白衣の下から表れる緑の鱗のように重なり合いその上半身を覆い尽くす幅広の葉！　だが、腰を含む組織がひときわ大きく蠢くや、緑の葉の下から突き上げるごとく膨れ上がる黒灰色のゴジラと同じ岩のような表皮。そのとき！
「ＧｉＡａＡａＡａＡ－－ａ－－Ａ－－－－！！」
　苦痛がそのまま衝撃派と化したごとき絶叫をあげるや仰け反り身悶える緑の上体！


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