＊湾岸の戦い

「ゴジラ、防衛ラインを突破し東京湾に侵入。まっすぐ特殊部隊基地めざし進行中！」
　緊急放送が響くや公開訓練取材の準備中だった報道陣が一気に浮き足だつ！
「ゴジラがここへ？　冗談じゃない！」
「対決は俺のいないところでやってくれ！」
　避難してゆく人々の波に逆らい機龍の元へと走りつつ、省次は焦った。原子炉だ、それしかない。ゴジラは機龍の中の原子炉を狙っているんだ！　だとすれば機龍がもし破壊されれば、都内で核爆発が起こってしまう。絶対負けられない！　ゴジラを決して近づけず先手を打ちアブソリュート・ゼロで仕止めなければ！　ヘルメット型ヘッドギアのマイクに省次が叫ぶ。
「機龍起動、湾岸へ移動！」
　瞬間、機龍のカメラアイに光が宿るや、巨体に似合わぬ機敏な足取りで海辺めざし進行開始。省次も専用ジープに飛び乗り後を追う。ジープのモニターにリアルタイムで送られてくるゴジラの進路の正面に機龍を待機させると、若者は両者の戦いを真横から見られるよう、機龍の左手側にある大型船用の埠頭へと車を回した。埠頭脇の車道でジープから降りたとき、埠頭の先端に白衣の人影を認めた彼は思わず駆け寄りつつ呼ばわった。
「白神さん、白神さーん！」
　灯台の回転灯を浴びた相手が振り返る。
「君はまだそんな」「いえ」
　遮った省次が言葉を継ぐ。
「その心がある限り、あなたはどこまでもあなたです」
　光が離れた数瞬、影に沈んだ女から応えは返ってこなかった。勝手にしてとの声がした直後、巡る光に浮かぶ後ろ姿。その先に上がる巨大な飛沫から巨獣の影が立ち上がるや白神が叫ぶ！
「先手でいくわよビオランテ！」
　たちまち巨獣を包み込むさらなる飛沫から優に数倍の高さまで突き抜ける長大な根また根。長く鋭い棘だらけのそれらの先では毒蛇の頭さながらの蕾が牙のような棘を剥き、生ける檻のごときそれらがたちまちゴジラの全身に絡みつく。巨体を覆い尽くす根の塊から猛然と立ち上る白煙と鼻を突く酸の臭い。瞬間、苦鳴と共に埋もれた巨体が湾内に倒れ込み、埠頭に迫る大波から二人はぎりぎりで逃げのびる。振り返った二人の眼前では塊に埋もれた巨獣が咆哮しつつのたうち回っている。
「やった」
「違う！　溶解液の威力を海水で殺いでるのよ。なんて小癪な。だったら海から引きずり出してやるわ！」
「だめです、それでは陸上にも被害が！」
　言い合いとなり共に指示出しが遅れた刹那、立ち上がったゴジラがほぐれかけた根の束を鷲掴みするや全身を弓なりにして引きちぎり、上空へ放り投げた塊めがけ熱線を吐く！　爆炎を上げ落下した黒焦げの塊を何度も踏みにじった巨獣が、機龍に向き直り進み始める！
「させるかっ。機龍、全弾発射！　ゴジラの足を止めるんだ」
　だが視野の端で機龍は動かず、訝り頭を巡らせた省次は機龍の目が消灯しているのに気づいた。
「フリーズ？　ばかな……っ。機龍、機龍っ！」
　焦る省次の眼前で進みゆくゴジラの前方に次々に現れ展開するビオランテの根また根。熱線でなぎ払うも速い動きに狙いが定めきれず、その間にも続々と増え続ける根の先からゴジラの顔面に吐き付けられる溶解液！　ついに両目を焼かれた巨獣が苦しげな咆哮を上げつつ背を向け湾外へと逃れゆく。その姿を睨んでいた白神が舌打ちする。
「回復力もビオランテと同等じゃ海では決定打に欠けるわね。戦法を考えないと。君も人形はちゃんと整備した方がいいわ」
　白神が歩み去る間も、省次は沈黙したままの機龍から目を離すことすらできなかった。


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