*怨嗟
「……気が狂いそうだった。夜昼なしに奴らの嗤う顔が浮かんで離れなかった」
やっと耳に入ってきたのが、そんな言葉だった。
「病院どころか、家の外にさえしばらく出られなかった。食べるものが無くなっても、長い間そんな気になれなかったわ。出たら奴らが待ちかまえていそうで……」
なにもいえなかった。形になりきらぬまま渦巻く罪悪感めいた思いに顔を上げることもできなかった。だが、続く叫びがそんな思いの正体を暴く!
「こんなことになったのはなぜ? あんなものが作られたから、私がこんな目に遭うの? どうなの? 答えてよ!」
斧のごとき打撃に膝から崩れ、若者はただ床から見上げるばかりだった。救わねばならなかったはずの女を。そんな姿を黙って見下ろしていた相手が、やがて見限るかのように横を向き、先を続ける。
「そんなだったから心身ともにボロボロで、だから気づけなかった。いえ、縋ってたのかもしれないわ。そんな酷いことは起こらない、起こっていいはずがないっていう思いに。けれど、あの日私は感じてしまった、植え付けられたものの蠢きを!」
耳を塞ぎたい衝動を必死で堪えた。聴かねばならない、逃げることなど許されないとの一心で。
「とにかく殴った、いるはずのない、いてはならない生き物を。生かしておけば奴らになるものを。本気で殴るから連打なんかできない。それでも抵抗できなかった悔しさをぶつけ続けたのよ。あの嗤い顔を打ち砕きたくて、何度も血まで吐きながら。ついに拳がしがみつくものをもぎ離し、激痛に悶えつつも私は勝った。でも……」
俯いた顔が見えなくなり、沈黙が重さを増していった果てに、かろうじて届く呻き声。
「女の子だった。声もなく血だらけで、身動き一つしない。私が死なせた、小さな……」
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コメント
もも
2020年 10月21日 06:08
アップありがとうございます
ふしじろ もひと
2020年 10月21日 23:16
もも様こんばんは。
続きは少々お待ち下さい(汗)
Yoshi
2020年 10月22日 09:57
う~ 続きがきになる~~~o(><)o
ふしじろ もひと
2020年 10月22日 22:27
Yoshi様こんばんは。
今夜には投稿させていただけそうですが、内容が……(汗)