「デ、デザートに」「ドリンクぅ?」
予想もしなかった言葉にたちまち目の色を変える侵略者たちの様子を見て、タカフミがこっそりレオンに耳打ちする。
「なんや俺、だんだん悪いことしてるような気がしてきたわ」
「うますぎる話に気をつけろって、彼らは誰からも教わらなかったんでしょうかねぇ……」
ため息まじりのレオンの返事が聞こえたわけではなさそうだったが、有頂天になりかけていた5人の顔に突如として猜疑の表情が浮かぶ。
「ちょっと待て。食券くれるといっても」
「ここへ入れてもらえないんじゃ意味ないじゃない」
「そうだ、俺たちはこの冒すべからざる権利を行使しうる完全な保証を断固要求する!」
ひたすら食券がもたらすはずの至福の時の到来のみにこだわる彼らにより、事態はやにわに団体交渉の様相さえ呈し始めるが、そんなことに動じるようではB・i・R・Dジャパンの隊長は勤まらない。
「いいわ。そちらもトップがいることだし、1週間の休戦条約を結ぶということでいかが?」「お、おう」
かくてにわか仕立ての調印書に真柴リーダーの達筆とボースの楔形文字にしか見えない署名が記された瞬間、地球史上初となる侵略者との休戦条約はここにめでたく発効したのであった。
「ではミッションを説明するわ。我々はこのテレポートキューブであなたたちをピット星人の基地に送り込む。あなたたちのヘルメットにはマイクロカメラが仕込まれていて、基地の中の映像をリアルタイムで送信してくれるわ。1つのヘルメットにカメラが4台、5人で20台あるから瞬間的に周囲の全容をキャッチできるわけ。あなたたちは例の黒服の女に追われて迷い込んだふりをして、基地をただ走り抜けてくれるだけでいいの。とにかく絶対B・i・R・Dから来たと知られちゃだめよ。向こうはちゃんとした侵略者だから、B・i・R・Dの手先と思われたら危ないでしょ。だから逃げるときも直接こっちへ戻らず自分たちの基地にでも寄ってきてちょうだい。はい、なにか質問は?」
あっけなく終わった説明に、きょとんとしているヘルメット姿の5人組。
「……なにか質問ったって」
「なにを聞いたらいいのかわかんない」
「その基地って一体どんなとこよ?」
「やぁねぇ。それがわからないから行ってもらうんじゃない」
ああなるほどと、手を打って納得する5人の宇宙人。
「でも、なんだか引っかかるんだよなぁ」「私も」「おれもだ」「話の終わりのほうでさらっと、あたしたちがちゃんとしてないみたいにいわれたような気が」
「気のせい気のせい。それじゃ、準備はいい?」
レオンがキューブのスイッチを入れると、5人組の周囲の空間がしだいに歪み始める。その光景を見て、やにわに不安と後悔の表情を浮かべるヘタレ侵略者たち。だが、
「頑張って! 運動の後のAコースディナーは最高よ!」
その言葉にあたかも殉教者めいた狂熱とさえ呼べそうなものが5人の顔に戻ったとたん装置が作動し、いまやビーストの巣窟と化したはずのピット星人の基地へ無情にも転送する。キューブを置いて立ち上がり、十字を切るレオン。片道切符で送り込まれた彼らの安全祈願のつもりか、念仏を唱えるタカフミ。
「転送完了」レオンが離れた瞬間、キューブをブラスターで撃ち抜く倉澤チーフ。もともとピット星人の持ち物である以上、相手側からキューブの動作状況を探知される危険を警戒しての措置であるが、この一撃こそ異世界から飛来した悪魔との暗闘の始まりを告げる号砲に他ならなかった。
コメント
もも
2020年 07月24日 00:06
5人に頑張って欲しいですね
ふしじろ もひと
2020年 07月24日 01:18
もも様こんばんは。
当人たちはちっとも頑張りたくはなさそうですが(苦笑)