「チーフ、レオンは、『シルバー・フォックス』で旧湾岸通へ、ソラはワルキュリアで上空から。他はミッションルームで待機。さて、忙しくなるわよ!」
「ラジャー!」
「しかし、サヤ。リーダー、怖いな」
「テラちゃん、知らないでしょうね。大好きな『ツクヨさん』に、こんな鬼畜な顔あるなんて」
「タカフミ、サヤ、何か言った?」
「いや、リーダー。テラ坊無事かなって」
「そ、テラちゃん、無事に帰ったらみんなでパーティーよね」
笑ってごまかす、タカフミとサヤ。しかし、その笑顔は、思い切り引きつっている。
マツダとの共同開発による戦闘車輌『シルバー・フォックス』には、ステルスシールドを張り巡らせることが出来る。ソラのワルキュリアにはビームスキャン機能もあるため、ベストなセレクトだ。
ワルキュリアのコクピットに乗り込む前、ソラは自宅へとファックスを一枚流した。
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『レナニア』のオーナールームに、一枚のファックスが流れてきた。ソラからの連絡で、身元を預けている女性に渡してほしいと書かれてあった。
叔父上は温かいジャーマンコーヒーとバームクーヘン、そしてファックスを手に三階に上がった。そのメッセージは、
「旧湾岸通、第四冷凍倉庫跡」の一行だけ。
旧湾岸通がスラムと化したのは、十年ほど前に台風と高潮による浸水と、北部工業団地と北部物流埠頭の新設により、浸水が相次ぐ旧湾岸通は見捨てられたエリアとなったからだ。
ヒロコと名乗った女は、兄弟がお茶を飲む時に使うテーブルにあった、テラのスケッチブックを開いて眺めていた。テラが師である湖山画伯からいただいたスケッチブックには、様々なソラが描かれている。
ノックする音に気づいて顔を上げると、このオーベルジュの支配人が入ってきた。
「ソラからの伝言です」
コーヒーと菓子ののった盆を置き、ファックスを手渡す。
「今日は料理人も休みですので、私と同じ普通の食事となりますが、構いませんか」
「はい。ありがとうございます」
「では夜八時に夕食です。それまでどうぞ、おくつろぎを」
叔父上は優秀な実業家であると同時にこのオーベルジュのオーナー兼支配人。必要なことだけ伝え、後は相手を信頼する。
ヒロコはコーヒーと焼き菓子を口にしつつ、叔父上の靴音が階下へ遠退くのを確かめてからファックスを見た。
意味はすぐにわかった。
叔父上の心配りに感謝しつつ、部屋から姿を消した。
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「こちらソラ。現在寒風山上空。待機しています」
ワルキュリアのコクピットのソラは、アリーナへの通信の後、風防から旧湾岸通方面を見ていた。
“ソラ、あのねーちゃんだが、あの名前は嘘だな”
“ああ、本当の名前は、たぶん名乗らないと思う”
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さて、旧湾岸通のかつての第四冷凍倉庫、実はピット星人の秘密基地、いや、今や恐怖のスペースビーストがそこを根城としている。
ハイパー・エレキングを喰らい、餌食としたピット星人から得た知識で、光の国の若き戦士のことを知り、それを喰らい、その力を取り込もうとしているのだ。
金魚鉢の檻の中では左足首を鎖に繋がれたままのテラが、悪夢にうなされている。
「兄さん…」
消え入りそうな寝言を聞き嘲笑うピット星人。いや、ゴスロリドレスにピンヒール、ナチュラルメイクは同じでも、中身は別な宇宙から飛来した恐怖のスペースビーストだ。日本人の美少女に擬態しているが、その目は瞳のない暗黒だ。
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そんな冷凍倉庫外部の電源室にテレポートキューブの力で飛ばされてきたポンポス星人五人組。倉庫の中にテレポートポイントを設けなかったのは、それだけピット星人が用心深かった証だろう。
「う、うお、ここは?」
「げえっ、気持ち悪い」
「うぇえっ、酔いそう」
「着いたの? おえっ」
「ゆ、ゆくぞ飯のため」
いいつつ電源室のドアを開けたら、なんとそこには目を吊り上げて立つあの黒衣の女が!
「おのれビースト。ここがお前の墓場だっ!」腕から伸びた爪が五人に振り下ろされる刹那、銀の刃が爪を弾き火花を散らす!
「見つけたぜ! 別な宇宙からの侵略者!」
戻るスラッガーを頭にセットし身構える姿は、
「うぉおっ、正義の味方ウルトラマンゼロ!」
スターが登場したかのような言いぐさの、一応侵略者。
再びスラッガーを投げるゼロとかわす鬼女。逸れたスラッガーが壁に大穴を穿つや、中に逃げ込む五人組!
コメント
もも
2020年 07月25日 01:54
戦いが始まりますね
ふしじろ もひと
2020年 07月25日 02:24
もも様こんばんは。
いよいよ終盤までの総力戦です。