「さっきの女じゃないの？」
「リーダー、これが熱海のホテルの防犯カメラに映っていた女です」
　サヤが取り出した防犯カメラ映像の写真には、ゴスロリドレスにピンヒール、ナチュラルメイクの美少女が映っていた。
「……全然違うわね」
「黒い服の不審な女は、少なくとも二人いた、んですね」
　サヤは珍しく、大袈裟にため息をついて見せた。
　昼下がりのミッションルームには、真柴リーダーとサヤ、そして光成号令補佐官の三人だけだ。タカフミと倉澤チーフは仮眠を取っていて、レオンは戦闘車輌『シルバー・フォックス』でヒトミを迎えに熱海まで行っている。
　そして、ソラの消息は不明のままだ。
　科学分析部員達がピア・フォン反応を追いかけているが、それが捕まらないのだ。


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「お前ら本っ当にうるさいぞ。黙って食わんかもぅ」
　地下の保安部員がウンザリしているのは、食事の度に派手に喜び絶叫するヘナチョコな五人組に対してだ。
　タカフミがわざわざ自腹を切って、五人組の食事を手配したのだが、しかも朝食にもきつねうどんを五人前手配したのだから、兄貴分らしい面倒見のよさとしかいいようがない。
　さばの味噌煮の骨も湯呑みの白湯につけて味わい、鳥の唐揚げネギソースのネギソースもご飯にかけ、果ては割箸に移った汁の味まで舐めつくすのは、一応容疑者のはずな五人組。いつもなら具なしカレーやベーカリーの百円売りパンの耳特大袋入り、スーパーのおつとめ品に賞味期限の切れたカップ麺に缶詰。
　そうした物しか食べていない彼らには、新鮮でいい食材を使い生活部のママ達の真心こもった手作り料理は、天国のフルコースとしか形容できぬものだったのだっ！！


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“スペースビースト……。ゼロ、君は知ってるかい？”
“オレに聞くなよ。ボガールとかに感じは近いな。でも、ボガールとはまた違う、原始的な部分もあるみたいだな”
　虹色の超空間で向き合う、光の戦士と闇の聖女。
“スペースビースト。奴らは生存本能に裏打ちされ支配された、宇宙に恐怖をもたらす存在よ。
　私が追っていた奴は様々な星の生命体を喰らい、相手が持っていた知恵を盗み出して、かなりな知識を得ている。でも、知識を持っているとはいえ、知性はないわ”
”つまり明日の朝食のためにパンを一つ残すことや、来年のために種となる麦を残しておく、そうした明日のためにという知恵はないということか。では、まさかそいつがテラをっ”
“落ち着けよ。ソラ！”
　ゼロが今にも飛び出そうとするソラを制した。今はテラの手がかり一つないのだ。


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「テレポートキューブ？」
　ミッションルームでは、ソラを除いた『ミラクル・ワイルド・セブン』および光成号令補佐官、そして高嶺科学分析部リーダーが、ヒトミの持ち帰った黒い物体を取り囲んでいる。
「先日、ウィング・オブ・ザ・ホープで撃墜したピット星人の宇宙船と同じ材質が使われてますね。エネルギーからすると、まだあと一回は使えそうですがね」
「あと一回、使えるのね」
　レオンの言葉に、真柴リーダーが意味ありげに笑う。あたかも天使に化けた悪魔のように。


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「兄さん……」
　テラが捕われているのは、金魚鉢を伏せたような檻の中だ。
　ベッドに小さなテーブルと椅子。カーテンで仕切られた向こうにはトイレもちゃんとある。
　だが、テラはその檻から出られなかった。左足首の鎖は檻の真ん中で留められ、鎖の長さ以上には動けないのだ。

　テラはベッドに座り、胸に下げているペンダントを出して見つめた。高嶺科学分析部リーダーがくれたヨハンの牙のかけら。真柴リーダーからプレゼントされた、ダイヤモンドのピンキーリング。
　ソラが持っていた母のイヤリングだったスターサファイア。
　そして、昔ソラが作ってくれた、アイスラッガーのお守り。
　まだ大学生だったソラが、銀粘土で作ってくれた物だ。だが、形はセブンのアイスラッガーより、ゼロのゼロスラッガーに似ている。

　携帯電話をホテルの部屋に置いていたことが悔しかった。
　ソラが大怪我をしたと聞いたため動揺してしまったのだ。携帯があればアリーナか叔父上に電話して確認する余地もあった。
「ゴメンね。兄さん……！」

　そのときテラは凄まじい悲鳴に驚き顔を上げた。なんと、ハイパー・エレキングの入った水槽が真っ黒になり、そこからドロドロした醜悪なものが溢れゴスロリ女を飲み込み咀嚼している！
「に、兄さん助けて！」


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　突如ソラの左耳、スターサファイアのピア・フォンから流れる一筋の血！
「まさか、テラっ！」