甲高い絶叫と共に巨大な黒いぬらぬらした塊に呑まれゆく引きつった少女の顔が、昆虫まがいのピット星人本来のものに変じた瞬間溶け崩れる恐ろしい光景に気が遠くなるテラ。ドーム型の檻が蠢きながら押し寄せる醜悪な肉塊に埋没し、全く外が見えなくなったとき、泡立つような異様な「声」が耳に届く。
「コヤツ、コノ若造ヲ人質ニぜろトヤラヲ倒ス気デアッタノカ。ヨカロウ。カノ敵トソヤツヲ踊ラセル餌ニ使エルカ、確カメテクレルワ」
ついに意識を失ったテラの前で、蠢きながら縮みゆく肉塊。やがてそれが再び少女の姿を取り戻し、凶々しく顔を歪め笑う!
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「怪獣反応が旧湾岸区域に?」
「一瞬でしたが大きな反応でした。それもエレキングの反応と、もう一つ何か別のものが」
答えるヒトミに、さらに指示を出す真柴リーダー。
「反応の観測地点とテレポートキューブの設定座標を出して」
「304:791、同じです!」
「画像出して! ……偽装されてるみたいだけど、やはりここが基地なのね」
「この反応値、オレとソラが出動したときのと一緒やん。これもピット星人の手駒っちゅうことは、あの女やっぱり連中の仲間かいっ」
タカフミの言葉に、はっと顔を上げる倉澤チーフ。
「もしやポンポス星人が観測したという数値も同じでは。サヤ、彼らを連れてきてくれないか」
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>ビーストとやらの居場所もテラの行方もわからねえとなると、とにかく手近なところから始めるしかねえな<
>だったらあの5人のことをまず確かめなければ! うんと近くなら活性状態でなくても奴のことはわかるわ<
>わかった。だが君が姿を見せれば騒ぎになるし、俺も戻ればまず報告を求められる。ゼロの姿で戻るから、彼の影に溶け込んでいてくれ<
頷きあい、極彩色が乱舞する亜空間から姿を消す闇と光の申し子たち。
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”……いない! じゃ、奴はどこに?” ”シッ。誰か来るぜ”
およそ牢屋にいるとは思えぬ幸せな顔で眠りこけている5人組の前で狼狽する影に警告するや、曲がり角に身を隠し様子をうかがうゼロ。やがて足音が扉の前で止まった直後、鋭い何誰の声が飛ぶ。
「そこにいるのは誰!」
”チッ、さすがサヤだ。いい勘してるぜ”
ソラが苦笑する気配を感じつつ通路に出るウルトラ戦士。扉の前の女隊員の目が大きく見開かれる。
「ゼロ……」
呆然たる面持ちのサヤにうなづくウルトラ一族の若者。
「ソラはオレが助けた。詳しいことは本人に聞いてくれ」
言葉とともにまばゆい光に包まれるゼロ。近づこうとしたまままぶしさに立ち尽くしていたサヤがかけ寄ったときは、その姿はもうどこにもない。ややあって胸の高鳴りを持て余す自分を振り切るように踵を返し、ずかずかと扉に歩み寄るサヤ。次の瞬間、死者でさえ飛び起きるほどの大音声が廊下に轟き渡る!
「寝てる場合じゃないわよあんたたち! 起きなさいーーっ」
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「やはりこの値が問題の怪獣反応だったのか」
「ホラ、私のいったとおりでしょうボース様」
倉澤チーフの言葉を受けて得意満面のドース。
「しかし、こんな錆びた電池でよくデータが取れましたね」
「痩せても枯れても宇宙人やの」
「当然だ。我がポンポスの科学力に不可能はない!」
感心とも呆れたともつかぬ面持ちのレオンとタカフミに、痩せた枯れたというにはあまりにも無理がありすぎる侵略者の親玉が胸を張る。
「ゼロにはさっき会ったけど、彼女はどこ? なぜここにいないのよ」
「人質を取る狡猾な相手だから、裏をかくには自分が我々と接触したことを気づかれてはならないということで、俺の家に隠れてもらいました」
サヤに答えるソラに向かいうなづく真柴リーダー。
「でも、本当に人質がいるかどうかは確かめる必要があるわね。対応が全く別物になるから……。ところであなたたち。そろそろ自由になりたくはない?」
やおら向き直った女隊長の、悪魔が化けた天使のような笑顔に目をぱちくりさせる5人の宇宙人。
コメント
もも
2020年 07月22日 03:22
今夜も楽しめました
ふしじろ もひと
2020年 07月22日 06:51
もも様おはようございます。
楽しんでいただけて幸いです。