「別な宇宙からの渡来者……。ルナやスペーシーがそれに気づけるか」夜空を仰ぎつつ呟くソラの左胸が、微かに熱くなる。
“マヌケなルナやスペーシーの連中が気づく前に、ソラ、さっさと行って片付けちまおうぜ”
「……行くの？」恋人の呟きに小さく、だが力強く頷く。
「ウミ、心配しないで。俺一人じゃないんだから。じゃあゼロ、行こう」
　左胸がまばゆく輝き始めた時、ソラのピア・フォンに緊急コールが入る。舌打ちするゼロと慌ててポーチからＢ・ｉ・Ｒ・Ｄグラムを取り出すソラ。
「ソラです」「ソラりん。今どこ？」
　ヒトミが泡をくった様子でモニタの前にいる。
「さくら台運動公園の近くです。スクランブルですか？」
　ヒトミに代わってモニタに割り込んで来たのは、真柴リーダーだ。
「ルナ、スペーシーの最終防衛ラインを突破されたわ。あと十数分で、夢野シティ近郊に飛来する模様ね。アーカイブによると、ピット星人の宇宙船。
　いまパイロットは私とサヤだけだから、ソラはＢ・ｉ・Ｒ・Ｄスーツに着替え、さくら台運動公園の噴水広場前にて待機！」
「ラジャー！」
　今日の非番はソラと倉澤チーフだが、タカフミも午後から休暇を取り神宮球場へ愛してやまぬ阪神タイガースの応援に繰り出している。交流戦に次ぎ死のロードでも大幅に負け越し、ドッシリＢクラスだというのにトラキチはエライし奇特だ。そんなタカフミを神宮球場から呼び戻すには時間がかかり過ぎるし、ヒトミやレオンではまだ心許ないためお鉢が回ってきたのだ。

　ウミと共にブルーのビートルで噴水広場前に到着したソラは、リアシートを倒しシークレットボックスから予備のＢ・ｉ・Ｒ・Ｄスーツを取り出すと着替え始めた。めかし込んだ夏服からコバルトブルーの戦闘服に身を包んでいくうち、ソラの意識も戦士のそれに高められてゆく。襟元の二重ファスナーを上げた時、倉澤チーフが向こうから走ってきた。
「チーフ」
「ソラ、ビートル借りるぞ。警戒体制レベルがもう発動する。ウミさん、自宅まで送ります」
　ソラのビートルは、見た目こそかなり古い型だが、実際はメカニック四十七士達が手入れをしていて、車体も実はルナ・チタンだ。
　倉澤チーフとウミがビートルに乗り込んだ時、アリーナから飛来した戦闘機３機の合体形態である希望のツバサがさくら台運動公園に垂直着陸した。
「ソラ、急いで。最終迎撃ラインで迎え撃つわよ」
「ラジャー！」
　ソラは愛機ワルキュリアのコクピットに乗り込み、ヘルメットとグローブをつけた。
「ウィング・オブ・ザ・ホープ、テイクオフ！」
　タカフミの乗機バロンのコクピットにいる真柴リーダーの操縦で、希望のツバサは夜闇の中を舞い上がっていく。

「デート中、悪かったわね」
　真柴リーダーがソラに話し掛けてきた。
「はい。今度、埋め合わせをしておきます」
「リーダー、ソラ、三時の方向にステルス機能反応。地球外物質反応あり。間違いなくピット星人の宇宙船です」
　カマエルのコクピットでレーダーを注視するサヤの声が割り込んできた。
「先手必勝で行くわよ。ハイパー・ディメィション・システム、スターティング・オーバー！」
　黄金色のハイパー・ディメィション・シールドに包まれた希望のツバサが一気に加速しピット星人の宇宙船に迫る。
「フリージング・クレッセント、シューティング！」
　三日月型をした絶対零度の鏃に真っ二つに切り裂かれ、宇宙船はあえなく爆発する。
「やった！」
「いえ、サヤさん。あれは……怪獣圧縮カプセルです！」
　レーダーに写る落下中の物体。
「ソラ、サヤ、ユニットオフよ」
　三機の戦闘機に分離した希望のツバサも落ちてゆくカプセルを追尾するが、瞬間、カプセルの一角がカチッ！　とオレンジ色に輝くや封印が解けた！

「何あれ？」サヤが絶句する。
「アーカイブＵＧ及びＺＡＴに記録がある、エレキングに似てますね」ソラがすかさず検索する。
「サイズが違い過ぎるし色も黒い。それにあれ、機械で体が補強されてるわ」
　通常のエレキングより縦も横も一回り以上大きく、長い尻尾は鞭のように鳴って海水を叩いている。
「いけない、御蔵島を目指してるわね。行くわよ二人とも」
　御蔵島には、世界最大の潮汐発電所がある。そこを狙われたら夢野シティやアリーナは大変なことになる。
“エレキングか。デカいな。行こうぜ”
“かつてセブンやタロウによっても倒されているが、気を引き締めていこう”
　ソラは愛機を自動操縦に切り替え、オッド・アイにウルトラ・ゼロ・アイを重ねた！