「ソラ、今日は楽しかったわ。あんないい席で観られるなんて、そうないから嬉しかったわ。演目もキャストも最高だったわ」
「ああ。ウミ、ありがとう。俺もリフレッシュ出来たよ。ルナ3Dからニューヨーク総本部へ行ったりして、休む暇もなかったから。シティにこんな美味しい会席料理があるなんて、知らなかったよ」
「前の館長さんの送別会と、現館長さんの歓迎会がここであったの。いつか誰かと来たいと思っていたの」
夢野シティ、さくら台運動公園近くにある会席料理店『残月』から出てきたのは、若い恋人達だ。
会話の内容や少し互いにめかし込んでいる様子から、ミュージカルのマチネを観てから横浜を散策して二人が暮らす街に帰ってから夕食を取る。ごく普通な恋人達の会話だ。
一見どこにでもいる平凡なカップルだが、実は二人とも人には言えない秘密を抱えている。
“笑えるよな。月星人が鱧を知っていて、地球人が知らないなんてな”
“また君か。仕方ないだろ。母さんは和食苦手だっだし、鱧は調理が難しい魚なんだよ”
男……天河ヨハネ碧宙という、二十四歳の日本人とドイツ人とのハーフの、穏やかで優しげな青年。
黒とブルーのオッド・アイ以外はどうってことのない、普通の青年だが、B・i・R・Dジャパンアタックチームの一員として怪獣や侵略に来る星人達と戦う戦士でもあり、また、同時に彼は現在、地球を守る光の国の戦士ウルトラマンゼロと一体化して、共に戦っている。
そして、女のほうは七浦海翠。市立図書館で働く二十四歳の女性。清楚な美貌とほっそりとした姿の美人ではあるが、やはり優しげで可愛らしい笑顔がチャーミングだ。
その彼女の真の生まれは木星の衛星ガニメデであり、かつて地球とは兄弟星であった月で暮らしていた一族、月星人の末裔でもある。たおやかな美貌の下には凄まじい超能力を秘めている。
ウミはかつてガニメデの同胞を人質に取られ、ウルトラマンゼロと一体化しているソラを殺害するべく、彼に近づいた。
しかし、いつしか二人は互いを思い慕うようになっていた。
ソラとゼロの活躍で侵略者の野望は砕け散り、ウミは仲間達に祝福され、再び地球で共に生きることを選んだのだった。
そして先程ソラに茶々を入れてきた存在こそ、はるか彼方のM78星雲にある光の国から来たウルトラマンゼロだ。
「ここから見るシティも、なかなか綺麗ね」
「ああ、今度『カバティーナ』に行こうか。あそこは夢野シティのみならず、横須賀の夜景も見えるんだ」
「じゃあ、今度はそこへ行きたいわ。……ソラ、テラちゃん待ってるんでしょ。ケーキ買って帰らないといけないんじゃ?」
「あ、テラ、いないんだ。西画伯の熱海の別荘で合宿に参加してるんだ」
テラとはソラの七つ下の弟だ。幼い頃から絵画に親しみ、日本画の大家、湖山行雄画伯に見出だされ、その最後の弟子ともなった。
高校三年生とは言え、無邪気でイノセントな性格の持ち主で、最近は友達もたくさんいる。ただ、謎の奇病、ドゥールンフェルガー症候群に侵されてもいる。
ソラに辛いのは、そのあまりにも重い真実を伝えられないこともあった。
ソラがウルトラマンゼロと共に戦い続けるという苛酷な試練に耐えているのは、弟であるテラを、テラが笑って暮らせる地球を守りたい。その願いがあればこそだ。
「テラちゃん、珍しいわね。お兄さんのそばから離れるなんて」「テラも気難しくなって来たよ。自立心が芽生えてきて、最近は口答えも増えてきた」
苦笑いするソラだが、言葉ほど深刻さはない。
兄として、弟の成長は嬉しくもあった。
「ソラ、ねえ。なら今夜、私と……えっ? あれは…!」
艶やかな眼差しでソラを誘いかけていたウミの瞳が、天空を見つめる。
「どうしたんだ……」
ソラが声をかけるのも躊躇われたのは、ウミの眼差しが怖い程に天空を睨んでいたためだ。
「『マザー』からメッセージだわ。なんてこと! まさか」
“ゼロ、君には何か見えるかい?”
“すまねえ。オレにはわかんねえ。どうやらこれはウミたち月星人だけに解る、特殊なシグナルなんだろう”
天空を見つめるウミは、青ざめている。
「大丈夫かい」膝が折れかけたウミを、ソラは優しく支える。
「ええ。でもソラ。大変な事態よ。冥王星のそばにある次元の門を、何者かが突破して地球を目指しているという『マザー』からのメッセージだったの」
「次元の門?」
初めて聞く言葉だった。
02MF →
コメント
ふしじろ もひと
2020年 07月06日 21:04
いよいよ始まりましたるリレー形式の合作。記念すべき第1回はAさんの先攻でした。
もも
2020年 07月07日 03:12
了解で~す
よろしくお願いいたします