ふしじろ もひとさんの日記

2022年 02月09日 03:23

『史上最低の侵略』51MF

(Web全体に公開)

<『史上最低の侵略』その51>
MF

take-51

December 1st 13:50

 からくも破壊を免れた特殊車両を手にゴミ山脈から脱出すべくもがくゼロ。だが、
「く、くそっ さっきの倍は増えてるじゃねえか! さてはぶっ壊されたなデカブツ野郎」
 あがく若きウルトラ戦士の身を圧する凄まじい量のガラクタ。派手に崩せば街は確実に壊滅する。毒づきながらも慎重にゴミの山を上へ上へと芋虫のごとく這い進むゼロ。だが、事態はそんなゼロの予想とはおよそかけ離れたものだった。


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「く、くそ! しぶとい奴めが!」
「おのれチョコマカしおってえっ」
 必死の形相でタブレットを叩く飢餓状態のサロメ双子。だが、モニターの向こうのデカブツはもはや顔以外は骨組みだけとなりながら、身軽になった巨体の動きはむしろ素早さを増していた。それに引き替えこの期に及び、俄に動きが重くなったサロメの誇る偽戦士たち。五人組にカレーで水増しされつつも本来の性能の高さゆえどうにか動作を保ってこれたサロメ印の機械オイルが、ついに焦げつき始めたのだ!
 気づけぬはずがない事態だった。いつもの彼らであったなら。だが生存ラインさえ脅かしつつある飢餓を気力だけで押さえ込む今の彼らにそれだけの余力は全くなかった。まして彼らの精神はスピーカーの向こうで身勝手に喚く昆虫人間どもの陶酔しきった声に容赦なく削られていたのだから。
>ああ、あのけつねうどんのダシの香り!<
>こってり鯖に絡むあの味噌のまったり味<
>あんな分厚い焼肉がこの世にあるなんて<
>具材ごろごろのけんちん汁、か、感動っ<
>熱々ご飯に有明の海苔! た、たまらん<
 ああタカフミがぶっ放したミサイルの弾幕はもちろんのこと、それが引き起こしたデカブツからのガラクタの土砂降りからさえ逃げおおせた宇宙一の闘争ならぬ逃走能力を誇るポンポス星人五人組! さすがに最後の手段たる黒光りする羽で積み上がったゴミ山脈の上を低空飛行しつつもいっこうに衰えぬ異常な志気! そのもととなっているものこそかつてB・i・R・Dの留置場で味わった臭い飯というにはあまりにも過ぎた味と質を誇る隊員食堂から差し入れられたうどんや各種ランチの記憶にほかならず、その声には実際に食した者しか表し得ぬリアリティが打ち震えんばかりの感動と共に深々と刻み込まれている!
 それはかの五人組にわずか三日で身代を食い潰されたばかりに悪化の一途を辿った食生活の結果たる慢性的な栄養失調に加え、電気代の滞納により作戦に欠かせぬ電気を止められかける事態を脱すべく有り金はたいて支払日に間に合わせた代償として一週間の飲まず食わずを強いられた双子の心身にとって、尋常ならざる破壊力を及ぼすものだった。臓腑を捩られるごとき痛覚とともに鳴り続ける腹の虫は電気が尽きて開いたままのハッチから青空を臨む広大な地下工場に響き渡り、なにもないはずの周囲の壁にはポンポス星人たちの言葉に掻き立てられた和洋中なんでもありの料理の幻影が消すこともならず積み上がるばかり。かの昆虫人間たちが夢見る桃源郷の光景は、だが餓鬼道に堕ちた哀れな双子の精神を音さえ立てんばかりに削ってゆく。そんな身でロボットの異常などという些末事に気づける生き物が大宇宙のどこにいるというのか。
 ついにがくりと膝を落とした弟に、やっとのことで抱き留めた兄が血相を変えて呼びかける!
「ど、ドリアンしっかりしろっ」
「もうだめだ。すまぬ兄者……」
 消え入りそうな声でいうのがやっとの弟の身を抱きしめることしかできぬ兄オスカー。だが焦点を失おうとする弟の目に、兄は悔し涙にむせぶ声を絞り出す。
「この兄を置いてゆくのか。我らはずっと二人で生きてきたではないか。父上がセブンを模倣しつつも超えられなかったばかりに我らが家名は没落し、露骨な嘲りに耐え切れなかった母上が逐電した後は二人だけで全てを堪え忍びつつ打倒セブンを合い言葉にやっとここまできたというのに、セブンどころかポンポスごときのガラクタにさえ屈するしかないとでもいうのか……っ」
「……あ、兄者……っ」
 必死で差し伸べようとする弟の手に兄がタブレットを握らせたとたん、モニターの彼方でさしもの巨体を腰までガラクタに埋もれさせたデカブツが巨大な両の拳を高々と振りかざし、憎むべき貧乏神の首魁のダミ声がスピーカーから喚き散らす!
>偽物どもの動きが止まったぞ! 今こそ鬼畜サロメの悪巧みを粉砕し、ロボアニキの手柄によりカナリーの飯をワシらのものとなすのだあぁあっ!<
 瞬間、重なったタブレットの輝きと共に彼我のロボットが放つ乾坤一擲の一撃! 目にも止まらぬ応酬とともにサロメの意地とポンポスの食い意地が交錯する!


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「ど、どっちが勝ったの?」
 上空を旋回するサヤの眼下で固まっている、拳を振り下ろしたデカブツとその背後の空中に浮かぶ偽ゼロ偽セブン。と、デカブツの巨大な頭部がぐらりと傾ぎ、積み上がったゴミ山脈に地響きを立てて落下する。たちまちゴミの山が崩れ、ガラクタの津波が街を呑み込みつつハッチの開いたサロメの地下工場まで迫ってゆく。その惨状に口をへの字に結びつつミサイルを撃ったタカフミと監督責任を免れぬ自身の減俸額を算定する真柴リーダー。そのとき響く当のタカフミの頓狂な叫び!
「な、なんやあれ!」
 宙で静止したままの偽ゼロ偽セブンが黄色い煙を上げていた。関節という関節から焦げ茶混じりの黄色い煙が朦々と噴き出しているのだ。そしてロボットたちの姿勢が崩れた。


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 ガラクタの海を貫く衝撃に、ゼロは街の破滅を悟った。
「くそっ、遠慮も気遣いも無駄だったってのか!」
 毒づきつつも一気に真上へ飛び上がり、守り抜いた戦闘車両を高々と掲げゴミの山から上半身を突き出すゼロ。だがその脳天をいきなり襲う二つの巨大な連撃! 墜落してきた偽者と認識することもできぬまま昏倒したゼロの半身がゆっくり倒れ、その動きに押しやられたガラクタがついにサロメの基地へもなだれ込む。夢野市全土に響きわたった凄まじい金属音の余韻が、史上最低の侵略として記憶されるこの戦いの終わりを告げたゴングのごとく薄れるにつれ、タンコブができたゼロの頭も最後まで戦闘車両を離さなかった手も光に包まれ消えてゆき、後には戦闘車両の中のソラだけが放心状態のまま残されるばかりだった。


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>ろ、ロボアニキが負けたあ!<
 見事にハモる五人組の声も、だが最後の気力まで使い果たした餓死寸前の双子には届いていなかった。届いたのは匂いだった。それだけが飢餓に削られた意識を掻き立てることができたから。だがそんな彼らが見せつけられた真相は、あまりにも無惨なものだった。
「か、カレーの」
「匂、い……?」
 やっとのことで見上げたモニターが暴く、全身から黄色い煙を噴く偽セブン偽ゼロの惨めな姿。半生を費やし設計を練り上げ、飢餓と戦ってまで完成させたロボットたちが陥った運命。それは消耗しつくした心にはあまりに重すぎる痛撃だった。モニターを見上げたままついに気絶したオスカーとドリアンはもはや、頬を伝う涙を感じることも、墜落した二体が仇たるゼロにみごと一矢報いた姿を見ることもできぬまま、ショックで髪の毛がまっ白になった姿で床に崩おれた。だがハッチからなだれ込むガラクタの下敷きになる寸前、哀れな双子たちは地下基地から忽然と消えたのだった。



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https://www.alldesu.com/diary/79090

コメント

もも

2022年 02月09日 07:33

頑張りましたね

ふしじろ もひと

2022年 02月09日 08:39

もも様おはようございます。
みんなそれぞれ頑張りましたが、結果は史上最低と呼ばれることに(涙)

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