<『史上最低の侵略』その50>
A
take-50
December 1st 13:45
「ゼローっ!」
ガラクタの底なし沼に沈んでいくゼロ。
その姿に、思わず叫ぶサヤ。
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“……くっ! パワーが、足りねえっ!!”
ゼロはもがく。自らの活動限界も迫っている。
だが、ゼロの思いは一つだった。
自分の中で気絶しているソラを、安全な所に脱出させねば。
“…でないとオレは一生テラに泣かれるし、ウミからは毎晩どれだけ……っ!”
いや、むろんテラやウミのこともある。だが、それ以上に強い願いがあった。
相棒であるソラを守るのは、このオレだと。
ゼロはガラクタの沼の中で、ソラの身の置き場になるものを必死に探した。
ふと、ゼロの指先に、何かが触れた。
“これは…!”
B・i・R・Dジャパンとトヨタがコラボして開発した最新鋭特殊戦闘車輌『グレイ・ハウンド』! ソラの姿からゼロになる瞬間、咄嗟に偽インペライザーの足元から遠ざけたそれが、これだけのガラクタに埋もれてなお無事だったのだ! ゼロは戦闘車輌を掴もうとした。
“ち、チカラが出ねえ……”
指先に力が入らないどころか、グレイ・ハウンドの灰色の車体までもガラクタに覆われた闇の中に霞んでゆく。
“すまねえ。ソラ……!”
ゼロの金色の目から、胸のエナジーコアから、光がみるみる薄れていく……。
【諦めては、なりません!!】
涼やかな声が、深い闇に呑まれゆくゼロの心に響いた。
“……誰だ。あんたは”
だが呼び掛けた声が答えぬうちに、ゼロの体にチカラが蘇ってくる。金色の目に光が宿りエナジーコアも赤く点滅を始め、遂に青き光が燦然と胸元に輝く!
“ありがてえ!”
ゼロの右手が、グレイ・ハウンドを掴んだ。
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「リーダー! ギガナパームでガラクタの足元を焼き払うわっ!」
「ダメよサヤ! これだけのガラクタ、延焼したら大変なことになるわ」
ガラクタの沼に消えたゼロを救出せんと焦るサヤは唇を噛む。その間にも偽セブンと偽ゼロは、攻撃対象を巨大ガラクタへ変えて、ガンガン偽エメリウム光線や偽ゼロキックをかましている。そのたびに巨大なるデクノボウからは滝のように大量のガラクタパーツが剥がれ落ち、ハッピ姿を模した外装もボロボロの巨体にいまだ落書きまがいのタカフミの顔だけがカーネルサンダースもかくやというような笑を浮かべて乗っかっている。ついにその首めがけ舞い上がるセブンとゼロの偽者たち。そのとき!
「さっきから見とったら好き勝手しおってぇえーーーーっ」
コメカミに太っとい青筋浮かべたタカフミの指がボタンを押すや、一気に偽戦士に撃ち出すありったけのミサイルの弾幕!
「バカ……」
思わずため息をもらすサヤのローズピンクの唇
「今月はタカフミ、減給ね」
不機嫌な形に曲がる真柴リーダーの紅い唇。
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「ふむ。偽セブン達の動きが鈍くなっておるな。なにやら関節が焼きつきかけておるようだが……」
「後ろのガラクタも、あと一分ですね」
「さて、そろそろ行かねば。市民病院で面会不可に出来る病室を押さえておきなさい」
「は。幸い、滅菌隔離病棟の特別室がありますので、そちらを用意させます」
「では、後は頼む」
夢野シティ市役所の市長室に立つ市長の姿。それが揺らぎつつその真実の姿……メフィラス星人ラーダへと変わりながら薄れていく。
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【さあ、立ちなさい。貴方なら、大切なパートナーを、守れるはずです!】
ガラクタの底なし沼を必死に掻いて浮上しようとするゼロに呼び掛ける声。その声から相手が女性であること、地球にいる存在ではないことをゼロは感じた。
“待ってくれ! これじゃオレやオヤジの偽物とまともに戦えるだけのチカラじゃねえ。”
【不毛なる戦いは、間もなく終わります】
“って。どういう意味だ?”
【……勇者を目指す若者達。私はいつも、地球の守り手である貴方がたを見守っています……。さあ、お行きなさい】
ゼロはグレイ・ハウンドを右手に握りしめ、ガラクタの沼を浮上せんと手足を掻き始めた。
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ゼロに呼び掛けた声の主は、手にしていた手鏡をそっと手摺に置いた。そして空を見上げ、遥か彼方に輝く太陽を見つめる。
ここは太陽系の最果ての星の一つ、冥王星。
今は冥王星に住む月星人の城を擁する都。その城の最上階のバルコニーから、年齢に陰ることなき美しさを備えた女性が大きな瞳を彼方に向けている。
あの太陽の近くには、かつて彼女が大いなるチカラに選ばれたとき青春を捧げて守った青い星があるのだ。そして同じチカラを得てパートナーとなったかの星の民の青年も。
「……こちらにいらしたのですか。今宵はこんなに寒いというのに」
「ええ。地球が見たくて」
手鏡の女性に呼び掛けた若き女性もまた、憧れを宿した視線を遥かなる星へと投げかける。
「私も地球に、降りてみたいです」
「そうね。貴女がもう少し様々なことを学んだら、地球に行く日を決めましょう」
「え、本当ですかマザー。私もあの美しい、愛の星地球に?」
「ええ、地球は本当に美しいわ……」
かつて地球でミナミと呼ばれた月の民の女王は、鏡を再び手にするとその表面をそっと撫でた。そこにはかの星が変わらぬ青い輝きを纏っていた。
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コメント
もも
2022年 02月07日 23:18
早く助けてあげて下さい
ふしじろ もひと
2022年 02月08日 06:13
もも様おはようございます。
もちろん助かりはするんですが……(汗)