<『史上最低の侵略』その36>
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take-36
November 28th PM20:00
「では、お料理はこちらです。締めやデザート、追加にはベルを鳴らしてください」
「わかりましたわ。ありがとう」
艶やかに微笑む美女が、仲居を下がらせる。
夢野シティの日本料理「残月」の一室。鶏鍋を囲んでいるのは、ソラ、ウミ、ミライだ。
なかなか全員揃う機会がなく、ようやく実現したのだ。
鶏鍋をつつきながらも、三人の会話に加わる、もう一人の声。
“なあ、ウミ、メビウス。お前達はどう思う?”
「…ただ事ではないのは、確かね。『マザー』も懸念されているわ。
暗黒の月にある時空の門が、ここまで不安定になるなんて、かつてなかったことだから」
「ソラ君、ゼロ。実は今回の地球近辺の不穏さから、僕は一旦光の国の仲間と近くの島宇宙で、接触することになりました。
今、宇宙のあちこちにある時空の門が、不安定なんです。
一週間くらいで帰れるとは思いますが、皆さん、用心してください」
話が区切りがつき、鶏鍋をつつく、三人ともう一人。
だが、いつしかソラは箸が止まり、考えに沈んでいた。
「ソラ。食べましょ。お腹空いてたら、知恵も沸かないわよ」
ウミがソラの取り皿に、鶏肉や野菜をよそって差し出す。だが、ソラは箸を取ろうともせず、更に物思いに沈もうとする。
「……テラ君の、こと?」
ソラの手に触れた時、ウミは相手の心が激しく揺れ動いていることに気づいた。それを察した様子で、ようやくソラも重い口を開く。
「…今日、湊医療部リーダーと、倉澤チーフから、先日の検査の結果を、聞かされました。
限りなく4に近いグレード3だと」
それを聞いたウミの表情が翳る。十億人に一人と言われている原因不明の脳の疾患がテラを蝕んでいることは、ウミもミライも知っている。
「…テラ君が、そんな」
ミライも箸を置き、ソラを気づかわしげに見つめる。
「母さんや父さんと約束したんだ。テラを守るって。なのに……っ」
「ソラ。貴方のせいじゃないわ」
ウミは優しくソラの背を抱き締めた。
もともと両親が『カストルとポルックス』と呼んでいたほど、仲良しな兄弟だ。そしてソラは両親に代わり、テラを守り育てる役割を担っている。
そんな兄と弟にのし掛かる重すぎる試練。
声を殺して涙を流すソラを、ウミはそっと、その背を抱いていた。
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そんな兄の涙など露知らず。
当の本人はワクワクした様子で、テレビ電話の番号をダイヤルしていた。
回線が繋がると、モニタには大好きな人が現れた。
「ツクヨさん、こんばんはっ!」
「あら、テラちゃん。今月はごめんなさいね。せっかくの休みが、スクランブルで潰れたから」
…そう、モニタの向こうで婉然と微笑んでいるのは、テラとラブラブな妖精の女王にして、B・i・R・Dジャパンの最高責任者である大号令。アタックチームリーダーであるとともにソラの直属の上司たる真柴月夜。そう、『ツクヨさん』だっ!!
まだ、ミッションルームのメンバーで、テラの病状の今について知っているのは、ソラと倉澤チーフだけだ。
ソラは深夜にはアリーナへ戻るが、倉澤チーフは今、ミッションルームにいた。
夕食を自室に弁当を持ち込むことで、昨夜、ダーリンの『テラちゃん』からのメールにあった、テレビ電話通話となったのだ。
しばらく話が盛り上がっていて、テラがふと気付いた。
「ツクヨさん。それ、五月ママのオムライス。…それだけ?
ツクヨさん、ちゃんとご飯食べてる?」
「大丈夫よ。テラちゃん」
「ツクヨさん、今度、僕が、お弁当作ってあげる!」
「まあっ! テラちゃん。ホントにいいの?」
「うん! あ、ちょうど1日がね。僕の学校、推薦入学の面接があるから、授業はお休みなんだ! 僕は課題製作をしないといけないから、お昼過ぎから学校に行くんだ。
だから、ツクヨさんに、お弁当作ってきてあげる! 僕のサンドイッチでもいい?」
「テラちゃんが作ってくれるなら、ヘビのスープでもカエルの姿焼きでも全然オッケーよ!」
「そんな怖いの、僕、作らないよ」
……電話回線越しに伝わる、超ラブラブな、二人の会話。
いや、これこそがまさに、『リア充爆発しろ!』なのだ。
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December 01st AM 11:00
「ミッションルーム。高嶺です。今、スペーシーから連絡がありました。
旧湾岸通の一角より、高密度な地球外物質反応があると」
怪獣警戒レベルは最低レベルで程よくダレていたミッションルームに、ピンと緊張が張り詰める。
ソラが端末を操作し、ミッションルームのメインスクリーンに、スペーシーからの転送データを投影する。
「…旧湾岸通、ここって確か、星川重工業があった地区ですね」 レオンが呟いた。
「誰か、調査に」
「リーダー、俺が行きます」
立ち上がったのは、ソラだ。
「わかった。気をつけて行きなさい」
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コメント
もも
2022年 01月25日 08:18
緊張しいますね
ふしじろ もひと
2022年 01月25日 20:52
もも様こんばんは。
なぜこのお話が『史上最低の侵略』というタイトルなのか、それを知らしめる戦いの幕開けです!