<『史上最低の侵略』その35>
MF
take-35
NOVEMBER 16TH AM 08:00
「踏んばれ皆の者! この作戦にこそワシらの夢がかかっているのだぁあっ!」
大八車の上にふんぞり返るボースの号令におおっと拳を突き上げ出動してゆく四人の昆虫人間たち。一人残されたドースを取り巻くガラクタの山また山。そして内壁はおろか二階から上の床板も全て引っ剥がされて足場状態の廃ビル内部にそびえ立つ二本の骨組み。なにしろガラクタの寄せ集めゆえ形状が不揃いな憾みはあるが、それでもくるぶしの部分であるらしきことが見て取れるそれは、すでにウルトラ戦士たちの身長さえ上回る威容を誇っている!
その脚部の周りにガラクタの山から選び出した材料を並べてはソロバンを弾き満足げに頷くドース。彼の使命は素材・形状そして強度の全てにおいて不揃いなガラクタから、必要な強度を確保しつつその脚部を、ひいては全身を計画に沿う形状に造形することにあった。なぜなら今回の計画においては、その姿形が誰にもそれと判じることができることこそ至上命令なのだから。過去に作ったロボットはどれも破壊活動を目的とするものばかりだったため姿はどうでもよかったのだが、今回の作戦はむしろ正反対の目的を持つものであり、だからこそどれほど遠くからでも一目でそれとわかる姿と大きさが求められるのだ。かつてなきチャレンジブルな目標を与えられたドースの技術者魂はいまや燃え盛り、近隣の廃ビルから剥がした板壁やガラクタを山積みに持ち帰ってきた仲間たちの異様なまでの志気ともども殉教者めいたものさえ感じさせるほどだった。なにしろ彼らの目には一年三百六十五日三度三度の特上日替わり定食という文字通りの極楽浄土が視えていたのだから、けだし当然というほかなかったが。
ともあれドースが選び点検した部材を首魁ボースの指示によりてきぱきと組み付けてゆくオース、メース、ミースの手際のその鮮やかさ! それはもしも彼らが過去の侵略においてこの実力を発揮していたなら、地球の命運は尽きていたかもしれないと思わせるに余りあるものだった。確かに形状こそいくらか不揃いではあるものの、信じ難いスピードで組み立てられてゆく下肢から腰の骨組みは、まだ外装が施されていないため真の姿の開陳にこそ至っていないものの、それでも彼らの計画の威容を感じさせずにおかず、ひいてはその成功さえ確信させるだけの力強さを有しているのだから。そして電池が錆びて使い物にならなくなった電卓までも材料として供したいま、慣れた手つきでソロバンを弾く彼ドースの姿こそ彼らポンポス五人組の夢と希望の象徴にほかならなかった。
だが、ドースは知らなかったのだ。かつて彼が経理および一般事務職として雇われていたあの有限会社メダルカレー。地球人の身でありながら労基法などガン無視して遅配続きの給与に代え不良在庫と化した甘口ならぬ薄口の「銅」をお持ち帰りさせていた三代目社長のタニマチ。その彼が直々に伝授したソロバン術こそ取引先や銀行の目をくらますために編み出された粉飾算術の秘技とも奥義ともいうべきものであったのを。まして仲間たちの誰が気づきえたというのか。遙かな銀河の彼方からやってきた宇宙人たる彼らに地球の、それも日本などという一地域の産物でしかないソロバンを解するすべなどあろうはずがなかったのだから。
それでも時は過ぎてゆく。誰に対しても分け隔てなく。それは同じく希望により力づけられたもう一組の侵略者たちも例外ではなかった。
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DECEMBER 1ST PM 01:20
「我らが宿願の成就は今ぞ!」
「ウルトラマンゼロ、覚悟!」
半月後の月替わりの日、廃工場で口々に叫ぶ双子のサロメ星人オスカーとドリアン。その美貌は耐え続けた生活苦と、にもかかわらず異様なまでの志気を支えた精神の燃焼の結果見る影もなくやつれ果て、肉の削げた顔には色濃い隈さえできていたが、栄養失調の明白な証たるその隈は彼らの炯々たる眼光とあいまって、もはや鬼気と呼ぶべきものを放つに至った剣呑な容貌の凄惨さをいっそう際だたせるばかりだった。なにしろ工場の地下に潜ませてきたロボット三体を起動し出撃させるために欠かせぬ電気すら止められる事態に至り、なんとか納入期限までに電気代を払った代償としてこの一週間飲まず食わずを強いられたことを思えば、いかな美貌も餓狼めいた鬼相に転じぬはずがなかったから。
「憎っくきセブンの倅よ。我らの挑戦受けてみよ!」
兄の絶叫を合図に弟が骨ばった指をタブレットに走らせるや、命を削り確保した電力によってついに開き始める第一のハッチ。その中からせり上がってきた破壊神にも例うべき黒き機神インペライザーが顔面の砲塔を回転させるやたちまち乱射される光弾が廃ビル群を瞬時に撃ち砕く!
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コメント
もも
2022年 01月24日 00:40
ロボット完成したんですね
ふしじろ もひと
2022年 01月24日 01:43
もも様こんばんは。
自らの血と肉と命すらも削った結果、ようやく完成に至りました……(汗)