＜『史上最低の侵略』その３４＞
Ａ

take-34

NOVEMBER 8TH PM 21:30

「スペースビースト『ダルク・メイア』登録しました」
Ｂ・ｉ・Ｒ・Ｄジャパンのメインコンピュータ『ロザリンド』の人工音声が返ってきた。
ソラは出撃後のミーティングやレポート、そして夕食を済ませてからメインコンピュータセクションに籠っていた。
ワームホールから出現したスペースビーストのアーカイブ登録をすませたところだ。

“しっかし、ソラ。気に入らねえな。何だってビーストなんかが、やって来るんだか”
「確かに気に入らない。前にウミが言ってたように『時空の門』をやすやすと越えられるとは思えない質量を有していた。
それにあれだけの悪知恵。相当な知性が発達し過ぎていた。
よその宇宙で相当な悪さをしていたヤツが来たのは偶然なのか、悪意ある何かなのか」
“ビーストの都合なんて、オレ達じゃわかんねえからな。
メビウスにも相談してみるか？”
「一度、食事にでも誘ってみるかな。色々聞きたいこともあるから」
メイン・コンピュータ・セクション内部で語り合う、二人。
別な宇宙から渡来した恐怖の存在、スペースビーストが２ヶ月のうちに二度も来ることが、二人の心に影を落としていた。


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NOVEMBER 9TH AM 00:40

「ん？　見当違いやったて？」
旧湾岸通のキャバレー『ＴＡＴＯＯ』
そのカウンターで、レモネードを啜っているのはタカフミだ。
ミーティングを終えてから非番になったタカフミは、久々に『ＴＡＴＯＯ』を訪ねていた。

バイクで来ているためノンアルコールだが、今日のメインアクトを勤めた『ＪＡＣＫ　ＫＮＩＦＥ』のヘビーなロックンロールはなかなかご機嫌だった。
ここは深夜１１時まで生演奏が出来るためｌｉｖｅの開演も遅いが、アーティストもそれだけ長く演奏してくれる。
さっきまでは『ＪＡＣＫ　ＫＮＩＦＥ』の演奏で盛り上がっていたが、バンドメンバーも帰ったため、人も疎らになった店内のバーカウンターに移動したタカフミは、オーナーであるジュディと話していた。
「一組ほど、それは怪しい双子らしきがいたけどね。
私の直感で目星をつけてたけど、どうやら違ってたみたい。
確かに夏の終わり頃に連中を見た時は、堂々たる貴族のように、あのスラムを人目を避けつつも歩いていたわ。
でも最近は中の筋を、サザエさんみたいな買い物籠を提げてスーパーマルタ屋や八百屋で値切りまくってるのを見たわね。
……私もヤキが回ったかしら」

ここ『ＴＡＴＯＯ』は、旧湾岸通でシティへの入り口にある店だ。
旨い酒と生演奏が楽しめる店だが、やはり堅気の人間には近づけない何かを放っている。
まだこの近くには稲浜地区へ向かうバスの停留場があったりして、まだ見られる地域、外堀筋だ。
中の筋とは言わばスラムであり、『夢野シティのガンジス河』とも呼ばれている、まず女子供は来たらアカン！　な場所だ。
タカフミはしばらく難しい顔をしていたが、やがて人懐っこい笑顔を苦労人なオーナーに向けた。

「ジュディさん。引き続き頼むで。頼れるのはジュディさんだけやから。
で、おかわりや」
はいはい。ジュディさんは昼に煎ったコーヒー豆をミルで砕きながら、温かいコーヒーを、タカフミの前に出した。


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NOVEMBER 9TH AM 01:00

そして旧湾岸通のキャバレー『ＴＡＴＯＯ』から、より闇が深い地区。中の筋より更に奥まった本丸地区。
ここ本丸地区は、夢野シティの大型ゴミ再処理施設計画があった場所だった。
しかし高潮によって大型ゴミ再処理施設が夢野アイランド西部へ移ったため、今では半ば放置されている。
ここには、あのヘナチョコ自称侵略者達のアジトがあった。

具なしカレーにパンの耳で、口に糊する自称侵略者。
今日はラッキーなことに、スーパーマルタ屋での仕入れミスで、食パンが一斤６５円、そして卵一パック税込８８円だったため、いつもは具のないはずのカレーに、なんと卵という具が入っていたのだっ！
そしてたった一パックの卵の力のなんという偉大なことか！
サロメの謎の工場を飛び出してから取り組んだ『ぷろじぇくと　そっーくす！』が、おかげで今日は進んだのだっ！

「アニキ……、偉くなって下さい……」
「おてがら、立てさせてあげます……」
「だからカナリーをあたしたちに……」
幸せいっぱい、卵入りカレーでお腹もいっぱい。
そしていかなる夢でも見ているものか、口々に寝言を漏らすヘナチョコ自称侵略者を見下ろす巨大な物体。その正体は、ああその正体は！



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