ふしじろ もひとさんの日記

2022年 01月22日 04:27

『史上最低の侵略』33MF

(Web全体に公開)

<『史上最低の侵略』その33>
MF

take-33

NOVEMBER 8TH AM 18:15

「おい、やつらがいないぞ?」
「本当だ。いったいどこへ?」
 廃工場の隅のテーブルに買い物かごを置きつつも周囲を見回す双子のサロメ星人だったが、やがて生活苦ゆえのやつれを隠せぬその美貌が歓喜の光に包まれる!
「出ていったのか? 兄者。あの疫病神と縁が切れたのか?」
「そうだ、ドリアン。天は我らをお見捨てにならなかった!」

 思わず抱き合い感涙にむせぶ二人だったが、やがて立ち上がったそのかんばせにはまぎれもない希望の光が差していた。それはもはや、神々しいとしか形容できぬ光景だった。立ち上がった兄オスカーの声は深い感動に打ち震えていた。
「これは天啓に違いない。この辺境惑星で憎きウルトラセブンに誅された父上の仇を、今こそ討てと天はいうのだ!」
 その言葉に弟のドリアンも涙を拭うや天に向かって叫んだ。
「我らの苦闘と忍従が報われた以上、二度と涙など流すものか。父上よ。我らの勝利と栄光への道行きをご覧あれ!」

 たちまち買い物かごから取り出すや包装を解くももどかしく、値引き品コーナーで掘り出してきた半額引きの昼弁当をかっ込む二人。ああ、たとえこの目で見てさえも、およそスーパーの弁当で人が(むろん宇宙人ではあるが)ここまで力づけられるなどと誰が信じられるだろう。まして腹ごしらえをすませ作業台に着席するや、憑かれたように数多の部品を稲妻のごとき刷毛さばきでひたすら赤一色に塗るその姿をいったい何に例うべきか。もはや顧みられることも減ったばかりか嘲笑の対象に貶められることも少なからざるこの希望。だがそれが本来いかなる力を発揮しうるものなのか、彼らの姿にわれら卑小なる太陽系第三遊星人はただ瞠目し、そして等しく恥じ入るばかりなのだ。そして……。


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NOVEMBER 8TH AM 20:00

 そんな姿に学ぶ気など毛頭なさげな種族がもう一つ、根城たる廃ビルで不毛なやりとりを続けていた。
「辞めてきたのはいいけどよ」
「これから一体どうするの?」
 オースとメースのその言葉に唸るばかりの一同。もう一時間も同じところで詰まっているのだ。現状を思えば働く以外の選択肢がないことは自明のはずなのだが、彼らのなけなしの勤労意欲はサロメ星人たちの阿修羅のごとき鞭の嵐に跡形もなく粉砕されていたのだから、無理もないというべきか。
「あ~あ、また具なしカレーの毎日かぁ……」
「美味しかったなぁ、カナリーのごはん……」
 堂々巡りの議論の果てにすっかり冷めたメダルカレー「銅」を啜るドースにミースがそう返したとたん、目を見開いた侵略者の首魁が太鼓腹を揺すって立ち上がるや、見上げる部下たちに檄を飛ばす!
「我がポンポスの辞書に停滞という言葉はない。ワシらは今一度カナリーのメシという原点に目を向け、目先の飲茶に惑わされて踏み込んだ勤労という名の惑いの道から正しき道へ立ち帰らねばならんのだぁあっ!」
「ああ、カナリーのごはん!」「仰せのとおりですボース様!」「私たちをお導き下さい!」「一生ついていきますぜっ!」
 感涙にむせぶ部下たちに頷くや、偉大な指導者は矢継ぎばやに現状を質す。
「オース、アニキ様には例のお宝情報を確かに渡したのか?」
「へい、間違いなく受け取っていただきやした」
「ではなぜ、アニキ様はいまだにB・i・R・Dの隊長になっておらんのだ?」
「おそらく邪悪なる真柴リーダーの妨害かと」
「なるほど、十分ありうることだ。ならば卑劣な妨害に負けずにアニキ様を出世させるため、ワシらはなにをなすべきか。知恵を示せ皆の者! この一手にカナリー制覇への起死回生がかかっているのだあっ!」
 その大喝に、生まれてこのかた見せたこともない必死の形相で頭をひねる四人の昆虫人間たち。だがそれほどの努力にもかかわらず、誰からも妙案は出てこない。ついに慣れぬ頭脳労働に疲れ果てたミースがこうぼやく。
「あ~あ、せめて人前で思いっきり目立つ手柄でもあげてくれたらなあ……」
 そのぼやきになにを思ったか、メースが顔を輝かせる!
「だったら誰かがアニキ様に化けて、バンバン手柄をたてたらどうかしら?」
「化けてったって、俺たち誰もアニキ様に似てないだろう?」
 いいかけたオースを手で制し、ボースが高らかに宣言する!
「我がポンポスの科学力に不可能はない。そうだな皆の者!」
 その一言だけで親分のいわんとすることを彼らが察し得たのは確かに営々と築かれた絆の力ゆえなのだろう。その当然の帰結として、立案される作戦が毎度おなじみワンパターンに陥る結果になろうとも。とまれ一度は分かたれたはずの二組の侵略者たちを希望の光が等しく照らしたばかりに運命は再び反転し、はるかな合流点めざし今や轟然と流れ始めたのであった。



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← take-32
https://www.alldesu.com/diary/78752

コメント

もも

2022年 01月22日 08:21

希望が湧きますねー

ふしじろ もひと

2022年 01月22日 18:08

もも様こんばんは。かくてサロメ双子とポンポス5人組との腐れ縁は最終決戦にもつれ込むという……(汗)

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