<『史上最低の侵略』その31>
MF
take-31
NOVEMBER 8TH AM 13:20
管制塔を掠めたまま一気に高度を上げ、上空で体勢を水平に戻した「希望のツバサ」 すると眼下にわだかまっていた闇の塊が見る見る薄れ、暗闘の果てに満身創痍となった両者の姿を暴く。一見すると全身が焼け爛れた若きウルトラ戦士のほうが酷い状態と見えるが、絶対零度の大鎌で大地に縫い付けられ巨大な鈍器で肉体をぐずぐずにされたビーストのダメージはタカフミの目にも明らかだった。
「ゼロの勝ちや!」
タカフミの叫びに、だが、サヤが奇妙に固い声で応じた。
「……あんなゼロ、初めて」
視線を戻したタカフミも感じ取った。表情を読みづらい若きウルトラ戦士のその姿が、けれど尋常ならざる気配を纏っているのを。それは怒気だった。激情を通り越し身も凍るような殺気へと転じた、抜き身の刃のごとき怒りだった。
言葉を失くした2人が見下ろす中、背後に跳び退きつつ渾身の光線技を放つゼロ! たちまち爆発四散した醜悪な肉塊が黒煙を吹き上げる強酸性の体液もろとも瞬時に燃え尽きてゆく。だが、この日敗者としてリングに沈んだのは、邪悪なスペースビーストだけではなかったのだ。
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NOVEMBER 8TH AM 17:30
2体の地獄の獄卆のごとき美貌の雇い主たちが買い物籠を手に出ていった後も、限界まで労働力を絞り取られた昆虫人間たちはすぐには立つこともできなかった。ようやく呻き声めいた言葉を交わせるまでに半時間を要するありさまだった。
「い、生きてるか?」
「な、なんとか……」
やっとのことであるいは壁に、あるいは塗料などの貯蔵タンクに縋りつき、それらを背にへたり込むポンポス星人5人組。種族本来の逃げ足に頼り切ってひたすら食い逃げや窃盗で生き延びてきた彼らにとって、13時から17時の死に物狂いで休憩もない労働は未曾有の体験だったのだ。なまり切った肉体も勤労意欲のかけらもない精神も、阿修羅のごときサロメ星人たちの鞭の前に完膚なきまで叩きのめされていた。
だが美貌の双子が打ち砕いたのはそれだけではなかった。もとをただせば給与に加え食事つきとの張り紙にひかれてやってきたいぎたない自称侵略者の困窮難民たちのなけなしの忠誠心。だが何度も切り下げられる労働条件によりそれはどんどん崩れゆき、鞭まで振るわれるに至りついに雲散霧消したのだった。
「もういや、こんな生活……」
「辞める、絶対辞めちゃる!」
口々にいう部下たちに、よろめきつつも立ち上がったボースが宣言する!
「ああ、今日限りでこんなとこ辞めるぞ。1日鳥丼3杯ぽっちでここまでこき使われてやってられるか!」
ぉお~~ぅと力がイマイチ入りきらない掛け声で応じつつも、もう働かずにすむというそのことに力づけられのろのろと立ち上がる4人の部下たち。
「さあ、奴らが戻ってこないうちに帰るぞ」
昼食の鳥丼にかけた具なしカレーの入っていた空タッパなどをまとめ始めた5人の手が、だが突如として止まった。
「晩メシは? 今晩の鳥丼はどうなるんですかボース様!」
メースの言葉に思わず唸ったボースだが、やがてポンと両手を叩くと太鼓腹を揺すり命令する!
「だったらここにある物をなにか持ち帰れ。それでチャラだ」
一様に頷いた部下たちだったが、さらなる難問が困窮しきったポンポス星人たちを待ち受けていた。
「とはいえなにを持ち帰ればいいんです? あいつら細かいからネジ1本でも足りなかったら絶対バレますぜ?」
オースの言葉に困り果てる一同だったが、そのとき空になった昼食用のタッパとまだ手をつけていない夜食用のカレー入りタッパを見比べたミースの顔が輝いた!
「だったら空タッパにこのマシン油を入れて、減った分だけ残りカレーを入れておいたらいいんじゃない? 色もそっくりだし、基地に帰ればカレーだけはいくらでもあるんだし!」
おおっと今度こそ歓声をあげる一同! さっそくサロメ印の高純度マシン油を空タッパに汲み取るや目減りした分だけカレーを注ぎ込み、5人の昆虫人間たちは二度と目にもしたくない廃工場をこの上なく晴れやかな表情で後にしたのだった。
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コメント
もも
2022年 01月19日 02:44
怪獣 やっつけたんですね
ふしじろ もひと
2022年 01月19日 03:41
もも様こんばんは。
邪悪な異星獣が倒されたのと時を同じくして、
サロメ双子にも破滅の種が蒔かれました(汗)