＜『史上最低の侵略』その２８＞
Ａ

take-28

NOVEMBER 8TH AM 12:25

「何とかならないの？　高嶺リーダー！」
　アリーナの科学分析チームリーダーに、サヤは連絡していた。
　高嶺リーダーはメインコンピュータルーム『ロザリンド』で、ダークフィールドへの突入方法を探っているのだ。

　幸いビーストとの戦いは今回が初めてではなく、夏の旧湾岸通倉庫エリアでの戦闘記録が『ロザリンド』に蓄積されていた。
「もう少し待ってください。……かなり面倒ですが、突入は不可能ではなさそうです」
「だあっ！　急いで慌てず慎重もええけど、頼むわっ！　ゼロが大ピンチなんやで！！」
　バロンのコクピットのタカフミが噛みつく。
「『希望のツバサ』なら突入可能です。ただし、ハイパーディメイションシステムを用いたパワーが必要です」
「フリージング・クレッセントね」
「ちょっ。最悪ゼロを直撃の可能性もあるやん」
「私達だけよ。今、ゼロを助けられるのは。メビウスでもたぶん無理。
　ゼロは、私達と共に戦うカマラーダ。
　昔『ウルトラ警備隊の七人目の仲間』と呼ばれた星から来た戦士を、私たちは今もウルトラセブンと呼んでいるじゃない」
「そやな。ゼロには世話になっとるな」
　タカフミもバロンのコクピットで頷く。
「高嶺リーダー、海上でユニットオンするで。突入ルートの計算頼んだで。
　サヤ、フリージング・クレッセントはお前がぶちかませ！
　ソラはともかく敵の弱点を探してくれ！」
　タカフミもサヤも、ワルキュリアのコクピットが今無人であることには気づいていない。簡単な受け答えは人工音声でされてもいたし、モニタにはソラの姿が映っているためだ。
　そしてソラの手になる人工知能はワルキュリアを操縦しつつ、スペースビーストのデータをひたすら分析していた。

　海上に出た三機の戦闘機が合体して希望のツバサとなった時、ついにアリーナから突入ルートが転送されてきた。
「サヤ、ソラ、行くで！　ハイパーディメイションシステム、スターティング・オーバー！！」
　海上スレスレを飛翔する希望のツバサは、海面を二つに裂いてダークフィールドへと突っ込んだ！


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……ヤバい。
　ゼロは焦りを感じていた。
　今、相棒のソラは、白昼夢の中に囚われたのも同然だ。優しく穏やかで、かつクールで知的なソラだが、それが時にぶっ飛ぶこともある。
……目前で惨殺された両親に関しては、ソラは普段のクールさを保つことができない。完全に魂を抜かれたに等しい状態だといっても過言ではないほどだ。
　しかもソラに父の記憶を呼び起こさせたのはゼロ自身だった。それが彼をいっそう追い詰めていたのだ。

“くっ……！　オレ一人でどうにかするしかないな！”
　強がりはするが、ゼロも実は手の打ち所の少なさに舌打ちしていた。
　こんな化け物、ゼロツインシュートかワイドゼロショットでぶっ飛ばせばいいが、狭いダークフィールドでは自分にもダメージがくる。
　とはいえ格闘では、溶解液である体液でジワジワとダメージを食らい、しかもこいつの再生能力はハンパない。

“……打つ手ナシかよ”
　瞬間、なにかの急迫をゼロは感じた。


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「だあっ！　なんや！　シールド効いとるはずがフラッター来よるで！」
　バロンのコクピットで希望のツバサを操縦するタカフミが思わず悲鳴を上げる。異星の技術を発展進化させた超科学の結晶たる『希望のツバサ』でさえ、未知の暗黒空間への突入に軋みを上げているのだ。
　高嶺リーダーからは直前に、この加速で突入すればダークフィールドを通過するまで僅かに三秒しかないと告げられていた。
「タカフミ、とにかくゼロとビーストに辿り着いて！
ビーストの動きを封じることさえできれば、ゼロにも勝機は充分よ！」
　サヤは艶やかな唇を勝ち気に引き締め、タカフミに呼び掛けた。ビーストエレキングとの戦いでも、とにかく敵の動きを封じていくことで逆転勝利を勝ち取ったのだ。
　ソラ……正しくはワルキュリアに搭載された人工知能……もまた、ビーストの動きを封じることが先決だと答えていた。

“……来るっ！”ゼロは気づいた。
　だがビーストは気づいていない。ソラに偽りの父の苦悶を見せつけいたぶることに夢中だ。瞬間、背後の闇を切り裂き飛び込んできた金色に輝く戦闘機！
「ビンゴ！」
　叫んだサヤが引き金を引く。
「フリージング・クレッセント！」
　絶対零度の氷の刃が醜悪な怪物を急襲する！



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