＜『史上最低の侵略』その２７＞
ＭＦ

take-27

NOVEMBER 8TH AM 12:20

「くらえっ！」
　不気味に蠢動する敵の肉塊のごとき胴体深く双手の刃で切りつけたゼロ。瞬間、傷口から吹き出す粘っこい体液に腕を焼かれ、刃を取り落としのけぞる若き戦士！
「ぐあっ！」”ゼロ！”
　とたんに腰に、胸に巻き付く触手の束。顔を上げたゼロの目の前で、両断寸前だった敵の体が瞬時に癒着するや、体表に開いた無数の穴から霧状の溶解液を吹き付ける。全身から煙を上げ膝を落としたウルトラ一族の若者に、左右に開いた腹部から牙を剥きのし掛かってくる醜悪な肉塊！
「ざけんじゃねえ！」
　屈したと見せかけ拾ったスラッガーで触手を切り払い跳び退くゼロの視界が紅蓮に染まる。Ｂ・ｉ・Ｒ・Ｄジャパンの誇る精鋭３機の放った弾幕の嵐が消化器のごとき化け物を直撃したのだ。だが怪物はたちまち消化液の濃霧で炎を鎮め、体表の消化孔から強酸性の液弾を全方向に撃ち出してくる。シールドを張って防ぐゼロの上空に逃れた３機の眼下で大きく身をよじるや泡立つような咆哮をあげる異星の獣。とたんに闇色の帳が怪物とゼロを押し包み、両者の姿がみるみる薄れてゆく！
「な、なんやあれは！」
「ゼロが消える……」

　驚愕するタカフミ。呆然とするサヤ。そんな両者の無線機から真柴リーダーの声が届く。
＞波動特性がハイパーエレキング事件の観測記録と一致したわ。姿は全く別物だけど、あれはスペースビースト。あのときゼロを喰らおうとした化け物の同類よ＜
「なんやて？　じゃあゼロは！」
「まさか、ダークフィールドに……」
　小型モニターの向こうで頷く女隊長の厳しい顔。
＞前回は全員がフィールドに取り込まれたけれど、今度の相手はゼロと私たちを分断するために使ったようね。見かけによらない狡猾な敵だわ。ゼロも奴の正体には気づいたと思うけど……＜


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　闇色の亜空間における戦いに、ゼロは苦戦していた。

　ダークフィールドには光に基づく力を弱め、闇の力を増大させる働きがある。でもそれだけならゼロの圧倒的なパワーは決して遅れを取ることはない。だがこのビーストはフィールドの範囲を狭くとることでゼロに接近戦を強いていたのだ。打撃を与えても敵にはダメージを与えられず、溶解液の返り血でこちらばかりがダメージを喰らう。離れて光線技を放とうにも狭いフィールドがそれを許さず、大業を使えば共倒れは避けられない。そして狭い亜空間に充満しゼロの体をじわじわと冒す強酸性の濃霧……。

　そしてそんな苦闘のただ中で、１つの体の２人の若者の精神をしきりにまさぐる見えざる手。

　なにかを仕掛けてこようとする意図を感じつつも相手の出方が読めないことで、彼らはいっそう追い込まれていた。ダメージの蓄積が危険な域に達し、ついに赤く点滅を始めるエナジーコア。焦りに駆られダメージ覚悟で懐に飛び込み真っぷたつに敵を切り裂くも、頭から大量の溶解液を浴びるに至りついに片膝を落とす若きウルトラ戦士。
　するとビーストが再び咆哮した。その叫びには勝ち誇るもののごとき響きと、それ以上に残忍な喜悦の色が確かに聞き取れた。とたんにその内臓めいた醜悪な姿が不気味に泡立ち始めた。地を這っていたものが立ち上がり、あらゆる組織が大きく脈動しつつ溶け崩れ、まるで異なるものへと転じてゆく悪夢のごとき数瞬ののち、その場に立っていたのは黒くてごつい鱗に覆われた大怪獣だった。だがその胴には大きな傷が口を開けあばら骨が露出しているのみならず、腐敗し濁った眼も白骨化した顔も生あるものの姿ではありえぬものだった。それでも頭のてっぺんで前に大きく曲がった一本角を見れば、それがなんであるかは明らかだった。そしてなぜ死んでいるのかも。ゼロの中でソラが呻く。

”ブラックキング、まさか、あのときの……”
「……どういうつもりだテメエっ！」
　敵がソラを標的にしていると悟ったゼロの怒声。だがそこには覆いようのない焦りが滲んでいた。そんな彼らに一歩近づく黄泉から戻ってきた大怪獣。拳を固めたゼロが立ち上がろうとした瞬間、焼けただれた敵の胸がぬめるように動くと苦しげに歪んだ男の顔が浮かび上がった。そしてそれが、呼んだ。

「ソ……ラ……」
”父さん……”
　その呻きに、ゼロの動きが凍った。



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