＜『史上最低の侵略』その２３＞
ＭＦ

take-23

OCTOBER 28TH AM 02:00

「円盤生物群は撃破。状況終了。これより帰投します」

　合体した希望のツバサのワルキュリアのコクピットで報告するソラの声に、カマエルからちょっと悔し気なサヤの声が続く。
「殊勲賞はタカフミに持ってかれたわね。断トツのスコアだったじゃない」
「まあそういうな。二人が連中の包囲網をかき回してくれたからかっ飛ばせたホームランや。全方位一斉射撃がバロンの必殺技やゆうても集中砲火くらったらたまらんからの。感謝しとるで」

　いいながらもつい相好を崩すタカフミ。得意満面かつ意気揚々たる風情で基地に戻ったのだったが……。


－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－


「ご、誤解やリーダー！　ロザリンドの私用なんかしてへんで。ホンマやって」
　予想もしなかった詰問に驚き抗弁するタカフミの眼前に、真柴リーダーが一枚の紙を突きつける。
「じゃあこれはなに？　あなたのＩＤで転送されてたけど？」

　一面をびっしり埋め尽くす文字と図形、中でもやたらと数字が目立つその記載内容を、動転のあまりすぐには判読できなかったタカフミだったが、やがて脳内に焦点を結んだその内容にさらにその目が見開かれる！
「な、なんやねんこれはっ！」

　雑然と並べられた卵パックや缶詰等の食品名の横に記された、おそらくは値段とおぼしき数字の数々。それだけならかろうじて一覧表としての体裁をとりえたはずのその文字列を、あまりにも無造作に分断する賞味期限と消費期限の違いが値下げ価格にどう反映するかを大真面目に考察する論文調の文章。その中にさらに脈絡なく押し込まれた数々の飲食店のマップには、ごていねいに逃走経路と書かれた路地の表示がもれなく記されている。それら全てがまるで寄せ書きでもしたかのようにでたらめに並ぶ当然の結果として、たった１枚のその紙の上にはもはや人間のいかなる想像力をも超越した一個のカオスが現出していた。食べ物というたった１つの概念だけがかろうじて共通項として見いだせるとはいうものの、それさえ全体の救いようのない乱雑さを印象づける役にしかたっていないことがもたらす当然の結果として、読んでいるこちらまで頭が悪くなりそうな文字と数字と図表が乱舞する混沌。そんなものをいきなり突きつけられて目を白黒させていたタカフミがふと気がつけば、女隊長をはじめその場の全員の顔に浮かぶ、侮蔑と憐れみとが各人各様あらゆる比率で混じり合った名状し難き表情また表情……。

「男所帯にウジが湧くっていうけど、これほどだったとはね」
「そんなに困ってたのなら、なぜ相談してくれなかったんです？　水くさいじゃないですか……」
　サヤの冷たい声とソラの涙声に追い打ちをかけられ、ヒーローとして帰ってきたはずの男はうろたえて叫ぶ。
「な、なんやみんな。そんな目で見んといてくれ。俺は知らん。ホンマになにも知らんねん！」

　ああ、かつての敵の零落した姿に情けをかけた、これが報いと人はいうのか。いかな情報を集めるべきか明示しなかっただけの好漢の落ち度に、かほどの厳罰を天は課すのか。

　人の子らよ心せよ。冷厳たる大宇宙の理を。見当外れの報いによって救い主を窮地に追い込んだ者らもまた、決して安んじてはいられなかったのだから。もはや空き腹を満たせようもなき鳥丼一杯と引き替えに、いまや一日中あらゆる大きさと形の金属板をひたすら赤く塗り続けることを余儀なくされた５人の宇宙人は、ドースのかつての勤務先だったメダル食品から現物で支給された賞味期限切れのカレーを文字通り切り崩しつつ糊口を凌ぐばかりだった。劣悪の極みに達した食生活の当然の結果として空腹から逃れるように眠る彼らが見ている夢が、隊長服を着たタカフミの慈愛のまなざしに見守られつつカナリーの全メニューを片端から平らげるという目覚めたときの現実がいっそう厳しくなるようなものであるという事実こそ、暗黒の宇宙が命あるものに抱く呪詛の証でなくてなんであろう！

　かくて１人の地球人と５人の宇宙人の間に芽生えた奇しき絆は宇宙の悪意により歪められ、彼らを窮地へと追いやった。そして人は知るだろう。これが終わりでなかったことを。むしろ予兆に過ぎなかったのだと……。



take-24　→
https://www.alldesu.com/diary/78619



←　take-22
https://www.alldesu.com/diary/78585