ふしじろ もひとさんの日記

2022年 01月10日 03:17

『史上最低の侵略』22A

(Web全体に公開)

<『史上最低の侵略』その22>


take-22

OCTOBER 27TH PM 22:55

ダッシュボードから響くのは、日本が誇るフュージョングループ、T-SQUAREのヒット曲『TRUTH』だ。
テレビ局のF1グランプリのテーマ曲として有名な曲。

深夜の静寂に、深い夜闇に沈む、夢野市旧湾岸通の外れで激走の後、タイヤを休めているモンスターマシーン。
その車両は、勿論、F1車両ではない。
B・i・R・Dジャパンと日産自動車によるコラボにより誕生した戦闘車両、通称『ブラック・パンサー』だ。
ドライバーもまた、B・i・R・Dジャパンアタックチームの一員、カザネ・サヤだ。
勝ち気で負けん気が強く、鼻っ柱が高い女性パイロットだ。
深紅にペイントされた愛用のツバサの名は、イスラエルの炎の天使、カマエル。
『紅いワルキューレ』とも呼ばれる女性パイロットだ。

「……ダメ。全然だわ」
サヤは先程走り抜けた、旧湾岸通の走りに、全く満足していなかった。

かつて、サヤはレーサーを目指していた。
一見お気楽な女子大生時代にも、語学や体力向上に努め、二十歳になれば大学を中退し、ドライバーとして渡航することも、考えてもいた。
……その夢は、残念ながら諦めざるを得なかったが、現在は戦闘機のパイロットをしている。
単なる戦闘機ではない。
侵略宇宙人の技術を利用したメテオールに代わる、それらを素に、地球人の技術と知恵が生み出した、ハイパーディメイションシステムを駆使した、超戦闘機だ。
元々、レーサーになりたかっただけあって、サヤはスピードに対する恐怖を克服しているし、勝ち気で負けん気の強さもまた、超戦闘機のパイロットとして、素質と成りうるそれであった。

「ダメ。やっぱりコーナリングかしら。スピードは充分なはず」
レーサー志願だった過去、そしてスピード狂であるサヤ。
旧湾岸通は、いわば一種のスラムであるため、夜になればまず人間は出て来ない。
ここに暮らしているのは、地球に住み着いた難民や侵略者であったが敗北し、帰ることすら許されず、異星で生きることを選んだ宇宙人がほとんどだ。

……ほとんどが市民権すら持たない、正真正銘の難民達が、肩を寄せ合って、見捨てられた地区にひっそりと暮らしている。

かつて横浜のお気楽お嬢様だった頃から、サヤはローリング族はおろか警察すら巻いてしまう、走り屋だった。

ここ夢野アイランドでも、サヤはその走りを時にしている。
夢野アイランドで走り屋達が闊歩するのは、怪獣多発地区である、寒風山が多い。
サヤもまた、寒風山を走っていたが、寒風山は最近、夜間立入禁止となり、走れなくなった。
一種の治外法権である旧湾岸通、サヤはパトロールと称して、ぶっ飛ばしていた。
いわばここは、サヤのGP会場だ。

「サヤりん。パトロールお疲れ様。何か変わったことあった」
「特にないわね。相変わらず、死んだように静かね。そろそろ帰るわ」
サヤはエンジンの回転を上げ、アリーナへの帰路を取った。

キャバレー『TATOO』が見えてきた。
ここまでなら、バスも近くまで通っているし、一般の地球人も入ってくる。
TATOOはまだ開いているようだ。
信号待ちにかかり、サヤはふと周囲を見回した。
「……あら、タカフミ?」
TATOOの店の看板を背にするように、一人の男の背が見えた。
タカフミは今日は非番だ。
タカフミがシティで部屋を借りて暮らしているのはシティセントラル地区にある、『タイガース優勝ビル』の最上階だ。
元々は50過ぎまで独身だったビルオーナーが暮らしていたが、昨年オーナーは若い女性と結婚し、東楠ヶ丘で暮らすようになり、常連のタカフミに部屋を貸しているのだった。

誰かと話をしているようだが、確認する前に信号が変わり、そしてアリーナから、緊急帰還連絡があった。

例によって、スペーシーの包囲網を突破した、侵略者がいるらしい。
連絡によると、円盤生物らしい。
サヤは『ブラックパンサー』をホバーモードに切り替え、上空を滑空して、アリーナへ急いだ。

「で、なんやねん」
タカフミはTATOOの店の裏手で、あのヘナチョコ自称侵略者五人組と会っていた。
『タイガース優勝ビル』の郵便受けに、折り紙の『だまし船』を入れることが、タカフミへの接触の合図であり、タカフミはタイガース優勝ビル前の公衆電話から、連中を呼び出した。
「兄貴ー! 凄い情報ですぜ。おい、ドース」
「はい、兄貴様」
くしゃくしゃのメモを開くと、古代の楔型文字のようなモノがビッシリと書かれてある。
「なんやこれ」
「はい、情報です」
「アホッ! 読めんやろ! まあ、ええわ。『ロザリンド』に解析してもらうか」
そこまで言った時、タカフミのピアフォンに緊急帰還連絡だ。
「すまん。帰らないけんわ。これ」
食パン一本をオースに渡すと、タカフミはアリーナへバイクを向けた。



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https://www.alldesu.com/diary/78572

コメント

もも

2022年 01月10日 06:21

食パン1本
5人じゃ足りないかもしれませんね

ふしじろ もひと

2022年 01月10日 17:37

もも様こんばんは。なにしろ彼ら、なまじ人数もいるだけに、あればあるだけ食べてしまいます(大汗)

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