ふしじろ もひとさんの日記

2022年 01月09日 00:04

『史上最低の侵略』21MF

(Web全体に公開)

<『史上最低の侵略』その21>
MF

take-21

OCTOBER 18TH AM 08:30

「く、クビだってぇえ~~っ」

 いかなる合唱指導者もほれぼれするほど完璧に声を揃えて叫ぶ5人組。だが仁王立ちした双子のサロメ星人たちの眉は、険悪な角度に吊り上がったままびくともしない!
「おまえたちが作った部品で無事に作業用ロボットは完成した。もう契約は終わりということだ!」「これ以上おまえたちを雇っていたら、我々も永遠におつとめ品の冷凍チャーハンしか食えんだろうがっ」
「それがなんだ! ワシらが何年パンの耳とカレーで凌いできたと思ってるんだあっ」「そうだそうだ!」「万国、じゃない。全宇宙の労働者を舐めるんじゃないわよっ!」

 ガンとテーブルを叩き怒鳴るボースたちポンポス星人5人組。その剣幕には横暴な資本家にとことん追い詰められ立ち上がるに至ったいにしえの労働者代表の魂が降臨したかとさえまがうほどの迫力が宿っていた。種族本来の旺盛なる食欲を頭ごなしに抑え付けられたフラストレーションが、つい1ヶ月前に目前の相手になすすべもなく屈したばかりの宇宙人たちの面構えをいっぱしの活動家らしきものに変えていた。

 だが皮肉なことに、それは経営者側も同じだった。ポンポス星人の食欲がいかほどのものかを知らずに雇ってしまったばかりに食料の備蓄を全て食い潰された双子のサロメ星人たちは、3体のロボット建造を続行する重荷ゆえに傾いた身代を立て直すことができずにいたのだ。いまや彼らは夕方ともなると交代で買物篭を片手に商店街やスーパーに出向き、少しでも安い品物を目を皿のようにして探すのはもちろん、馴染みの店では驕慢さを押し隠しつつ愛想を振り撒き、己が美貌の通じる相手にはそれを武器にすることすら辞さずに1円を巡る過酷な攻防の日々を送ることを強いられていたのだ。いまやテーブルを挟み怒鳴り合う労使双方のいずれの顔にも、生活苦ゆえの翳りが等しく落ちていた。それはこの国の為政者たちの株価頼みの政策によるプチバブルを震源とする諸物価高騰の結果いっそう色濃いものになっていた。いわば同じ生活苦と困窮に喘ぐ者同士。それも等しく侵略の志を抱いてこの星にやってきたはずの宇宙人たちが、にもかかわらず共感も連帯意識も持てぬまま百年も前の階級闘争をなぞる光景を悲劇と呼ばずしてなんと呼べよう!

 かくて昇る朝日が天頂を過ぎ、ついに天空に別れを告げる焔の色さえまとい始めたとき、不毛かつ妥協の余地なき怒鳴り合いに疲れ果てた一同を沈黙が閉ざす中、見る影もなくやつれたドリアンがのろのろとタブレットを取り出した。夕方の買い物の時間が迫っていたのだ。お買い得情報をひたすら検索すべく画面を滑る指が突如として止まり、信じ難いものを目撃した者のみが発しうる叫びがその場全ての耳朶を撃つ!
「こ、これを見ろ兄者!」

 ただならぬその声に全員がその小さな画面めがけて殺到する。そこに表示された文言を読み上げる一同の声は、今の今まで延々と罵り合っていたとは信じられぬ、芸術的なまでに一体と化したものだった。
「牛野屋の鳥丼発売記念。旧湾岸エリア4店の総力を結集して贈る宇宙人限定キャンペーン特価190円だってぇえ~~っ?」

 たちまちドリアンの指が電光のごとく閃き1つの計算結果を弾き出す。それを読み瞑目する兄オスカーだったが、やがて尊大に立ち上がるや苦々しさを隠せぬ声が言葉を紡ぐ。
「悪運強い奴らめ。だがクビは撤回してやってもいい。今後この鳥丼一杯で3食すませられればという条件付きだが、どうだ? それならおまえたちの人件費が、作業用ロボットの燃費より安くつくのだ」

 かくて史上最低の労使交渉は半日を費やした果てに妥結した。それは勝者なき戦いだった。経営側は餓鬼か貧乏神のごとき昆虫人間たちをお払い箱にできず、労働側は今後毎日3食をひたすら鳥丼一杯ですませるという、さらなる食生活の劣化を受け入れるしかなかったのだから。

 勝者と呼べるのは牛野屋のオーナーだけだった。侵略に失敗し母星に帰れなくなった一人の宇宙人が、かつての敵地で文字通り裸一貫から一軒の牛丼店を始め、成り振りかまわぬ経営努力が実を結んだ結果いまや旧湾岸区域に4店をを展開するまでになっていたのだ。そしてこの国のバブルが再び弾けデフレに逆戻りすることを見越した彼は、価格破壊の戦略商品たる鳥丼を市場に投入したのだ。

 その低価格の生命線は材料の仕入れ価格にあった。鳥インフルエンザの風評被害により売れなくなり倉庫保管されていた冷凍鳥肉に目をつけた彼はそれをとことん買い叩いたのだ。地球上の生物に感染するウイルスも宇宙人なら問題にならぬ。種族も境遇も多趣多様な異星人たちがひしめく夢野シティ旧湾岸区域における零細チェーンに過ぎぬ牛野屋の、これが飛躍の瞬間だったことを語る機会もやがて訪れることだろう。



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コメント

もも

2022年 01月09日 00:13

凄い戦いですねー

ふしじろ もひと

2022年 01月09日 09:27

もも様おはようございます。この勝者なき戦いの中で唯一の勝者というべき牛野屋についての一代記の一部としてオマケ扱いで書いた一文がありますので、いつもご覧いただいているお礼にここでお披露目させていただきます。

==========

鳥丼投入の成功の一因は、彼の前身に由来するものだった。地球侵略の尖兵としてかつて進めていた工作活動の中で、彼は広告を利用した情報操作にも手を染めた経験があった。そこで彼が学んだのが、あからさまに書かれた真実が常に真実だと受け止められるわけではないということだった。それを活かしたのがキャッチコピーの中にある「宇宙人限定」の文言だったのだ。

鳥丼が発売されるや旧湾岸区域という場末にもかかわらず、4店の前には長蛇の列ができた。本来のターゲットたる人間に身をやつした宇宙人たちもいたが、それをはるかに上回る地球人たちが詰め掛けたのだ。そもそも自らが宇宙人であることの証明などできようはずがなく、自己申告さえすれば誰でも190円で食することができたため、とにかく安上がりな昼食を求める者から単に好奇心でやってきた者に至るあらゆる動機にかられた地球人たちが、仕入先を知れば決して手など出さなかったはずの丼を我先に掻き込んだ。宇宙人向けゆえにいささかエキセントリックだった味付けさえ一種のエスニック風味としてキャッチコピーをさらに流布させる結果を招き、「牛野屋の鳥丼」は場末の4店からなる零細チェーンの知名度を一気に全国的なものにまで押し上げたのだった。

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