<『史上最低の侵略』その17>
MF
take-17
SEPTEMBER 20TH PM 19:00
「ほう、リーダーとテラ君がねぇ……」
ミッションルームでサヤに目撃談を聞かされ、そう唸るばかりの光成補佐官。その横に掛けている倉澤チーフが怪訝そうに問いかける。
「でもサヤ。なぜそのことを私たちに?」
「このことを、決してソラに気づかせるわけにいきませんから。あそこまで弟のことを気にやんでいるようでは、平常心なんか保てるはずがありません。それに彼は本気のリーダーの恐ろしさもまだ知らない。この世には知らないほうが幸せなこともあるといわれたのはチーフですよ」
「つまり、同じ秘密を知る私たちに協力してほしいというのですね?」
チーフの言葉にうなづくサヤ。
「彼はナーヴァスになってますし妙に鋭いときもありますから、どんなきっかけで感づくかわかりません。妹には今朝メールで口止めしておきましたけれど、下手するとテラちゃんの様子1つでなにか感づくかもしれませんから、うまく調子を合わせていただければと……」
「だが、テラ君のことはどうしたものか……」
思案顔になる補佐官に、今度はサヤが怪訝な顔をする。
「どうしたものって、そのままですよ。どうにもならないと思いますけど」
「いやしかし、あんな優しいテラ君を」
「本人同士がああなんですから仕方ないじゃないですか。それにテラちゃんといっしょの時だけは、リーダーも乙女乙女してますし、この際そのままにしておくのが世のためにもいいんじゃないですか?」
「なんだかあなたの話を聞いてると、テラ君が魔神の生贄みたいに思えてきますよ」
そういう倉澤チーフの表情は同情と安堵が入り交じったようなえもいわれぬものだった。テラと同い歳の息子を持つ父親としてソラに同情しつつも、自分の息子が生贄に選ばれずにすんだことに安堵の思いも隠せない。そんな内心がサヤには容易に見て取れた。なにしろチーフは自分とともに、逃げるポンポス星人たちをリーダーが軋む機体を駆り立てて悪鬼のように追い立てる現場に乗り合わせてしまったのだから、サヤとしてはわからないほうが不思議なくらいだったが。
「けれどサヤ。それだとそもそもソラをテラ君と会わせてはいけないという話になるのでは? 今日は水曜日だから、2人はいまカナリーで夕食のはずですよ」
テラの主治医でもあるチーフの言葉に、そういえば、と言葉を継ぐ光成補佐官。
「リーダーもついさっきカナリーへ向かったはずだぞ。予定より早く会議が終わったとかで」
「なんですって!」
血相を変えて立ち上がり、ミッションルームを飛び出すサヤ。エレベーターなど待っておれず、非常階段を駆け降り生活棟への地下道を走破するや風を巻く勢いでカナリーに駆け込んだ瞬間、耳覚えのある曲の最後の和音が豪勢な響きで鳴り渡り、悠然と虚空に溶け込んでゆく。入れ替わりに気まずさをとことん煮詰めたような異様な雰囲気が、悪寒とともに伝わってくる。
そもそも周囲の隊員たちの様子からしてまともではなかった。誰もが食べているものの味もわからないような顔で、水槽のある中央の席にちらちらと視線を向ける者、知らぬ顔を決め込み料理を掻き込む者、お通夜の席の大失態にでも出くわしたようにひそひそ話をしている者と様々ながら、それら全てが決して起きてはならぬことが起きたのだと痛いほど伝えてくるのだった。そして水槽で隔てられた3つの人影こそ、全てが徒労だったことを暴き立てずにおかぬものだった。
周囲の異様な雰囲気なぞどこ吹く風といいたげな、2人だけの世界に入り込んだ美しき鬼神と少年の姿。だがそこには、勝利の輝きの余波とでも形容するしかなさそうなものが、いっそう誇らしげな趣を添えている。そしてまったく対照的な、この場の雰囲気の根元たる瘴気に澱む青年の姿。
なにが起こったのかをサヤが悟ったとたん、打ち砕かれた若者が底なし沼から甦る亡者のように顔を上げ、恨みがましく濁った視線をこちらへ向けてくるのだった。もはやサヤにはその視線を振り切るように、カナリーを後にすることしかできなかった。
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コメント
もも
2022年 01月05日 13:57
ラブラブだから良いと思います
ふしじろ もひと
2022年 01月05日 17:44
もも様こんばんは。
ともあれこんな顛末になりました(汗)