ふしじろ もひとさんの日記

2021年 12月31日 23:51

『史上最低の侵略』13MF

(Web全体に公開)

<『史上最低の侵略』その13>
MF

take-13

SEPTEMBER 18TH PM 21:00

 去りゆく車のテールランプを見送るテラのまなざしに宿る光。同世代の少年たちがそれを失うことで少年期に別れを告げてゆくある種の純粋さともイノセンスとも呼ぶべきもの。それはテラにとって芸術的な霊感の源泉であると同時に、多くの若者たちとは異なる人生の道行きに誘いかねぬものでもあった。そしてテラは自分でも気づかぬまま、美しき鬼神の荒ぶる魂をその純粋さゆえに虜にしたのだ。あたかもそれは伝説に名高い一角獣がその猛き本性にもかかわらず、純潔の乙女に魅了され抗えないようなものだった。

 それを失った身であるがゆえ、兄のソラはそんな特異な状況を本能的に察知しうろたえている。しかしテラは自らが渦中にあるせいもあり、そのことを自覚できずにいた。芸術的な領域で発揮され始めたその直感的な洞察力も浮き世のことがらに及ぶほどには時が満ちていなかった。だから少年は闇にその身を浸食された異世界の娘が保ち続ける光を視ることはできても、現世の恋人を傑物たらしめている幅広くも奥深い多面性を包括的に捉えるには未だ至れずにいるのだった。
 やがて車の音に気づいて出てきた叔父上に促され、瞼に妖精の女王の姿を宿してしまった少年は家の中へと入ってゆく。誰かがまるで違う顔を恋人に見ているなどとは想像することさえできぬまま。だがそのとき、アリーナでは……。


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 ミッションルームへ戻るエレベーターの中で、サヤはいやでもあの悪夢の続きを思い出さずにいられなかった。



 スピーカーから聞こえる悲鳴また悲鳴の阿鼻叫喚。機体を強度の許す限界ぎりぎりまで駆り立てて逃げ回る必死の宇宙人たちを追いつめてゆく真柴リーダーの唇には、空中分解寸前の命がけのアクロバット飛行にもかかわらず笑みさえ浮かんでいる。もはや地球外技術メテオールを解禁せずには実現できないはずの領域に達した機体の動きは、鍛え抜かれた技と鋼の胆力の揺らぎ一つで死に直結するものと化していた。

 だが宇宙人たちの脚力もただごとではなかった。地球人の姿をかなぐり捨てた昆虫人間の動きはチーフやサヤの動体視力でさえ追えぬものとなり、神業というべき正確さで襲いかかるあらゆる攻撃を紙一重で躱し続けた。そしてさしもの重戦闘機がついに全弾を撃ち尽くしたとき、5つの影は地形すら一変した埋立て地の地平線めざし走り去っていったのだ。その姿を半ば呆然と見送るサヤの耳に、そのとき届く満足げな声。

「この私から逃れるなんて逃げ足だけは立派じゃない。ポンポス星人とやら。あなたたちの本気しかと見せてもらったわ……」

 そんな隊長に、倉澤チーフがおずおずと言葉をかける。
「……まさか、ほんとうに本気だったんですか?」
「そうよ。当たり前でしょ」
 不思議そうでさえあるその様子に、思わず大声を出してしまうサヤ。
「で、でもリーダー! なにもあそこまでっ」
「甘いわよ、サヤ」

 そういうとやおら視線をいまだ煙の立ち登る眼下の焦土に転じつつ、言葉を継ぐ仮借なき女隊長。

「考えてもみて。彼らはこの地球を侵略するため、遙かな銀河を越えてまでやってきたのよ。相手がそれほど本気なら、こちらも本気で応えなければ礼を失する。そう思わない?」

 風防のガラスに映る赤いルージュの口角が浮かべる凄みのある笑みを見たとたん、数多の死線をくぐり抜けた戦士としての勘が告げる。自分はいま、断じて敵に回してはならぬ存在を目にしているのだと!



 あのときチーフは他のメンバーには黙っていようと自分に耳打ちしたのだったが、テラのことを思えばサヤもまた、同じことを願わずにはいられなかった。この世には知らないほうが幸せなことも、知ってはならぬこともあるのだ。
 そのためにもタカフミには知られないようにしなければ。折にふれリーダーの気質の片鱗を目撃しているとはいえ、やはり直接あの場を見てはいないタカフミの認識はまだまだ甘い。中途半端に詮索して変なことをテラに漏らしでもしたら、なにが起こるか想像もつかない。いや、そんな想像したくもない!
 リーダーもじき戻ってくるはず。それまでの間なにがなんでも彼の好奇心をやりすごさねればと決意を新たにするサヤの前で、エレベーターの扉がついに開く。だがちょうどそのとき、廃工場では……。


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「メシがないだとぉ?」「そ、そんなバカなっ」「話が全然違うじゃん!」
 たちまちポンポス星人たちから上がる非難の嵐。だが、対するサロメ星人たちも憤然といい返す。
「誰のせいだと思ってるんだ!」「3日で備蓄を食い尽くされたこっちの身にもなってみろっ」
 さすがに言葉を返せぬ5人組に、ついに最後通告が突きつけられる!



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https://www.alldesu.com/diary/78472



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https://www.alldesu.com/diary/78435

コメント

もも

2022年 01月01日 02:54

五人のレベル
高すぎですね

ふしじろ もひと

2022年 01月01日 08:36

もも様あけましておめでとうございます。
おめでたいはずの新年早々の更新なのに、
いきなり場面は餓鬼道の入口という(汗)

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