<『史上最低の侵略』その10>
A
take-10
SEPTEMBER 15TH PM 23:45
「ん。もうこんな時間か」
ソラがマックブックから顔を上げて時計を見た。久しぶりに宇宙生物学の研究成果を論文にまとめていたのだ。
テラと夕食を取り、帰宅して新しいデザートの試食をしたり、二人でお風呂を楽しんだ一日も更け、テラはもう寝床へ就いていた。
明日は倉澤チーフが怪獣出現で延期となっていた三者懇談会のため、本来は非番だったソラが代わりに出勤することになっていたのだ。テラを明日学校に届けてから、倉澤チーフと交替する手筈だ。ベッドに入る前に、薄くかいていた汗を流すため、ソラはシャワーを浴び始めた。
“……ゼロ、君はどう思う? 母さんも父さんも、一介の学者にすぎない。だがあの日、シャプレー星人は確かにいった。宇宙を手に出来るモノが両方手に入ると。あれはどういう意味だったんだろう”
“すまねえ。そういうのはおまえの学者仲間や高嶺リーダーあたりのほうが詳しいと思うぜ。
オレの知ってる範囲ならさしずめヒカリあたりだろうが、あいにく面識がほとんどねえ。ヒカリと親しいメビウスなら何か聞けるかもしれねえが、最近バタバタしてるしな”
ソラが最近、自分の専門ではない宇宙物理学や宇宙生物学についていろいろ調べているのは、両親がなぜ殺害されたのかが知りたいだけではない。シャプレー星人の謎めいた言葉の裏には重大な秘密が潜んでいる。B・i・R・Dの一員たるソラにとって、いまやそれは看過できないものでもあったのだ。
だが両親の研究成果は爆破された自宅とともに失われ、もはや目にすることもかなわない。
“……ソラ、あんまり一人で抱えこもうとするなよ。ライアンやルドルフも研究してるんだろ? あんまり悩むと叔父上みたいな頭になるぜ”
“君も言うようになったな”
ゼロとソラ。当初はとても合いそうにない二人だったが、今やかけがえない相棒同士だ。
シャワーを終え、テラの寝顔に微笑みかけ、ベッドに入ろうとするソラに、ゼロは音楽をかけてほしいと頼んだ。
“今日はあまりいいCDがないんだけど、何がいいかい。クイーンかストーンズくらいかな。君が好きなアーティストは”
“じゃあ、昨日お前が聞いてたポール・マッカートニーのCDにしてくれ”
“君がポール・マッカートニーとは珍しいな。『ヤア! ブロードストリート』これでいいのかい?”
“ああ、それがいい”
ベッドに入ってしばらくすると、ソラは眠りに落ちた。
“……オヤジ”
ポール・マッカートニーの暖かい声に、ゼロはふと、光の国にいる父セブンを思った。
オヤジにはオヤジなりの理由があったのだろう。
あの時、抱きしめてくれたオヤジは、本当に暖かかった。
ソラやテラを温かく見守り、導いた彼らの父。
そして、優しく包んでいた母。
“……いつか、きっと話してくれ。オヤジ……”
ポールの歌声に包まれて、ゼロもまた、眠りに就いた。
SEPTEMBER 16TH AM 01:30
「チーフ、サヤ、帰ったで」
アリーナのミッションルームに、B・i・R・Dスーツに着替えたタカフミが入ってきた。
「お帰り。疲れたでしょ。何か飲む?」
退屈そうにファッション雑誌をめくっていたサヤがタカフミに微笑みかける。
「喉渇いたな。冷コー頼むわ」
「タカフミ、冷コーとは古いですよ」
医学書を読みながらオーガニックカモミールティーを飲んでいた倉澤チーフも笑い返す。
「大阪じゃ当たり前やけどな。それにそれが古いとわかるチーフも古いで」
三人の笑い声がミッションルームに響いた。
サヤが入れたアイスコーヒー……いや、冷コーの数のとおり、いまミッションルームは三人だ。でも2時になればサヤとチーフは仮眠に入り、レオンとタカフミが7時まで勤務だ。
「サヤ、チーフ。さっき『TATOO』の前であのヘッポコ自称侵略者のどアホ5人組に会うたらな。なんや就職決まったとかいうてたで」
「ほう、それはいいことです」
「あのヘナチョコ連中、これで大人しくなるわね」
アイスコーヒーならぬ冷コーの氷を噛みながら、ふとタカフミは浮かんだ疑問を口にした。
「それにしてもあの連中、えらいリーダーを恐れとるようやが、なんでかなあ?」
ギクギクッ!!
ファッション雑誌をサヤの手が取り落としたとたんビープ音が鳴った。チーフが医療アーカイブへのパスコードを入れ損なったのだ!
「そ、それは」
「サヤ、いけませんよ!」
「……わかってるわよっ」
「ん? なんや二人とも。なにをそんな慌ててんねん?」
ちょうどそこへ、勤務時間となったレオンが上がってきた。
「じゃあ私、もうパックして寝るからっ」
「私も朝から三者懇です。後は頼みます」
チーフもサヤも、そそくさとエレベーターへ消えていく。
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コメント
もも
2021年 12月29日 11:21
今回は穏やかなストーリーでしたね
ふしじろ もひと
2021年 12月29日 19:21
もも様こんばんは。
Aさんによるメインキャラの場面描写はさすがです。