<『史上最低の侵略』その8>
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take-08
SEPTEMBER 15TH PM 19:00
「テラ、どうだ。美味しいかい?」
「うん、凄く美味しい。ホカホカの小籠包は最高だね。あ、蟹焼売ください」
通りかかったワゴンにテラは声をかける。
夢野シティでもトップ10に入る人気レストラン「大上海満天星大飯店」の窓際のテーブルで夕食を取るソラとテラ。
今日は進路に関する三者懇談会があったため、サヤがソラに代わって出勤してくれた。来週月曜日は逆にサヤが異母妹ユカリの三者懇談会のため、ソラと休みを交代したのだった。
そしてテラはそのまま、推薦で聖ジョアン総合芸術学園の大学へ進学することになった。
テラの為に、新たに日本画コースも新設されるという。
「兄さん、食べないの。ホカホカのちまき、冷めちゃうよ」
「ああ、食べるよ」
粽の竹皮を外しながら、ソラは笑顔を返した。
……ソラとしては、テラには芸大へ進んでほしかった。
だが、テラは頑固にも、芸大には行かないの一点張りだった。
「兄さん、僕が芸大行かないこと、怒ってる……?」
「怒ってなんか、ないさ。ただ、テラが選んだ道は険しいぞ」
「うん。わかってる。でも、僕は僕なりに頑張るからね」
「わかった。テラ、次は鶏肉料理貰おうか」
「うん、すみませーん。その鶏肉の唐揚げください」
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SEPTEMBER 15TH PM 19:30
旧湾岸通。かつての七海重工の地下をひたすら降りてゆくエレベーター。
そのトイレの個室を模した狭苦しいエレベーターでひしめき合うのは、ポンポス星人五人組だ。
あの擦った揉んだの面接から五日、ようやく今日になって彼らの暮らす廃ビルに、一枚のカードが投げ込まれた。
『19時30分、旧七海重工地下へ』
それだけしか書かれていないカードに訝しみながら、念のため面接と同じ服装で、再び旧七海重工夢野工場へやって来たのだ。
ようやくエレベーターが止まり、ドアが開く。そこにはサロメ星人の双子、オスカーとドリアンが静かに佇んでいた。
「おめでとう、諸君。採用だ」
微かに眉をひそめつつも、兄のオスカーがそう告げた。
「作業には早速、明日から入ってもらう。その前に、まずは食事会にしよう」
どよめくポンポス星人たちをよそに、弟のドリアンが手にしたタブレットに指を走らせると、奥のドアが開いた。
なんと! そこには飲茶が、久しぶり過ぎのマトモなメシがあるではないかっ。巨大な地下工場をも揺るがさんばかりの五人の宇宙人たちの大歓声!!
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SEPTEMBER 15TH PM 23:30
「相変わらず、見事な腕してるわね」
「まあの。今日はラッツ&スターに鈴木雅之やったから、以前にも演奏したことがあったで」
キャバレー『TATOO』のカウンターで、ジュディが差し出したレモネードを啜るタカフミ。
タカフミが今日『TATOO』に来たのは、ハコバン『A FOOL』のベーシストが、右手を負傷したため、急遽の助っ人としてだ。
ジャズピアニスト、日野枝彰俊を父に持つタカフミは幼い頃から父のピアノ演奏を聞き、家に置いてあったダブルベースをおもちゃにして育った。
高校時代はバンドを組み、卒業間際に参加したコンテストで最優秀を取ったこともあるし、月の鉱山で働いていた時も、今傍らに置いている、フェンダージャズベースを持参し、暇な時はいつも弾いていた。
本来なら、ジュディと接触するのは、情報部スタッフだが、タカフミが接触役を努めているのは、タカフミ自身が演奏者であるため、怪しまれないというのもあった。
「んじゃ、今日は帰るわ」
タカフミはレモネードを飲み干して席を立った。
ベースギターのケースと、ジュディが焼いたパンを手に、タカフミは『TATOO』を後にした。
表に出ると、まだ夏の暑さが大気に宿り蒸し暑い。そんな中、愛車の逆輸入バイク、カワサキ『カタナ』に跨がろうとした時、エラく浮かれた声が近づいてくる。
この時間の旧湾岸通は、まだ開いている店から僅かに音楽が漏れてくるだけで後は静寂だというのに、カンラカンラと笑う声が近づいてくる。
「……ん? なんや、お前らか。えらいご機嫌さんでどないしてん」
タカフミの前に現れたのは、超ご機嫌な、あのヘナチョコ自称侵略者だ。すっかりへべれけになっている様子で、ご機嫌120パーセントと言ったところか。
そのせいか、一度は自分たちに手錠をかけたタカフミにまで馴れ馴れしく絡み、ゲラゲラ笑っている。とはいっても、あのとき彼らは自分たちを夜通し追い回した鬼女から逃れたい一心で自ら手錠をひったくって嵌めるや車に転げ込んだのだから、そもそも彼らにとってタカフミは救いの神といえなくもなかったが。
「仕事決まった~ぁ!」「な、なんと飯付きだぜいっ」
「これで具なしカレーと」「パンの耳ともお別れよォ」
「や、飲茶ですよ飲茶! 生きてて、よかった~~!」
「ほう? そりゃめでたいの。ほんならちょい待てや」
タカフミはポケットをゴソゴソすると、一枚の封筒を取り出し、中身をベタベタ絡んで来るオースに握らせた。
「ま、就職祝いや。給料出るまでこれで米でも買うたらしばらく凌げるやろ。そんなええ話、しょーもない盗み食いなんかで棒に振ったらアカンで」
なんと! オースの右手で笑っているのは、シワシワながらも五人の野口英世ではないかっ! 降って湧いた大金に固まる五人組をよそに、バイクをスタートさせようとしたタカフミが、さらにメースの手にもいい匂いのする紙袋を持たせた。ジュディから貰った焼きたての食パンだ!
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コメント
もも
2021年 12月27日 01:07
5人組
ご飯食べれて良かったですね
ふしじろ もひと
2021年 12月27日 06:02
もも様おはようございます。
雇い主サロメ星人の想定をはるかに超える凄まじい食いっぷりゆえに……(汗)