<『史上最低の侵略』その7>
MF
take-07
SEPTEMBER 10TH PM 21:20
「それでは選考を終えるが、なにか訊きたいことは……」
オスカーの言葉も終わらぬうちに参観日の小学生よろしく一斉に手を挙げるポンポス星人5人組。
「広告には勤務に応じて食事付きと書いてあったが」
「朝から晩までいたら3食食べられるんですかぁ?」
「何時にここへ来てたら朝飯が食えるんですかい?」
「できたらお献立きかせてもらえると嬉しいなっ♪」
「なるべくカレー以外でお願いしたいんですが……」
あきれ果てた顔を見合わせる双子のサロメ星人たちだったが、やがて弟のドリアンが小さなタブレットを取り出し指を走らせるや、それを兄に見せて頷く。眉をひそめたオスカーだが、5人の方へ向き直ると釈然としない様子ながらも終了を告げる。
「では今夜のところはこれで。結果は近日中に連絡する」
ぞろぞろと面接室から出てきた一行の前で、エレベーターの扉が音もなく開く。
延々と上り続けるエレベーター内ではひたすら猫を被っていた5人組だったが、廃工場の門を出たとたん堰を切ったかのようにしゃべり出す。だが、
「難しかったなぁ。あの問題わかったか?」
「計算はたぶん合ってるはずですが。2問目は980mになりませんか?」
「なによ、みんな答えがバラバラじゃん」
「工作の実技はともかくよ。書き取りなんかできるかよ」
「作文出るなんて聞いてなかったし!」
抜き打ちテスト後の中坊としか思えぬ会話だが、何度もいうがこれでも一応侵略者である。とまれ互いの話を突き合わせた結果わかったのは、どう贔屓目に見ても自分たちが合格ラインに届いているかは極めて怪しいという現実だった。追いつめられた部下たちの縋るようなまなざしを受け、ついに侵略者の首魁ボースが下す大いなる決断!
「この話、なにがなんでも誰かに盗られるわけにはいかん。こうなったらあのポスターを1枚残らず引っ剥がせ。路地裏の一本も見落とすな。いくぞ!」
おおっと拳を天に突き上げるや、散り散りに駆け去る昆虫人間たち。誰もいなくなった門前を、門灯に仕掛けられた監視カメラが冷ややかに見下ろしている。
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「本当にあんな連中でいいのか? ドリアン」
苦虫を噛み潰したような顔で振り返るオスカーに、タブレットに目を走らせていた弟が顔を上げる。
「まあ手先だけはそこそこ器用だし、単純作業ならなんとかなるだろう」
「おいおい! 我々が作らねばならんのは」
「だからこそさ兄者。我々が作ろうとしているものの秘密を守るには作業を分けて全体が掴めないようにするのがいいが、細かく分ければそれだけ多くの人数が必要になる。あの連中ならあまり細かくしなくても、まず気どられることはないだろう」
いいながら立ち上がり、再びタブレットに指を走らせる弟。
「この街には見た目以上に多くの宇宙人がいるようだが、中には地球人の手先になっている者もいるようだ。その点連中なら安心だろう」
「だがどうもあいつらは虫が好かん。おまえは試験の担当だったからいいが、面接したこっちは散々だったぞ。男どもは食い物のことしか頭にないし、女どもには妙な色目を使われるし」
「まあそういうな兄者。なんなら成績を理由に給金を値下げしてもいいのだぞ。どうやらあの連中はあちこちで盗み食いなどしているようだ。滅多なことではどこにも駆け込んだりはできんだろう」
「つまり飯さえ食わせればタダで働かせられるというわけか? まあ、おまえがそこまでいうのなら」
合わせ鏡さながらに、向き合う美貌の宇宙人たちの顔に冷笑が浮かぶ。
ああ、常に自然に挑みそれを模倣しつつ超えることで科学力を錬磨してきたサロメ星人。だが彼らとて決して万能でもなければ神でもなかった。この決断をどれほど悔いることになるか、今の彼らには想像もできなかったのだ!
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コメント
もも
2021年 12月26日 02:14
ポスターを剥がす作戦はびっくりしました
ふしじろ もひと
2021年 12月26日 09:28
もも様おはようございます。
飯のためならなりふり構わずです(大汗)