ふしじろ もひとさんの日記

2021年 12月21日 22:40

『史上最低の侵略』03MF

(Web全体に公開)

<『史上最低の侵略』その3>
MF

take-03

SEPTEMBER 9TH PM 19:00

 夢野市旧湾岸地区。開発から取り残され老朽化した建物が並ぶ翳濃きこの区域には、多くの異星人が人目を避けつつ隠れ住んでいる。そして今とある廃ビルで夕餉の支度をする4人組もまた、はるかポンプ座から飛来したポンポス星人にほかならない。
 だが地球人に身をやつした4人を見て、侵略者と思う者はいないだろう。彼らの様子はそれほどまでに所帯じみたものだった。それは潜伏を意図した巧みな偽装などでは決してなく、地球に来てからの生活苦が骨身にしみた結果であったから、いかな慧眼の持ち主でも、むしろそうであるほど、その下の正体を見抜くのは困難といえた。なにしろ彼ら自身でさえそんな貧窮生活の結果、母星での自分たちの生活の記憶さえ薄れつつあったのだから。
 でもかつての記憶が薄れるのは、生活苦だけが理由では決してなかった。彼らは数ヶ月前にB・i・R・D基地に拘留の憂き目に陥ったのだが、そこで出た食事が普段の具なしカレーやパンの耳と次元の違いすぎるものだったため、彼らは今もその思い出に呪縛されたままだったのだ。天国の幻影さながらのその体験は、彼らにとってあまりにも大きなものだった。単に命令されたから地球を征服にきただけの彼らに、それは地球制服とはいかなるものか啓示さえしたのだから。作戦が成功すれば母星で安楽な年金生活を送れるとのイメージしか持っていなかった彼らに、天上の美味さながらのB定食やけつねうどんに始まる料理の数々は毎日こんなものを食べられるようになることこそ地球制服という使命の真の姿であり、つまりB・i・R・Dジャパン基地の厚生施設であるカナリー1階付属の職員食堂を、神のごとき技を持つママたちもろとも奪取することという具体的なものへ一変させていたのだ。

 侵略目標が具体化する反面で著しく矮小化しているとの自覚に至った者は、宇宙人たちの中にいなかった。だがそれを嗤うことなど誰にできよう。貧窮生活の中でくる日もくる日も具材のないカレーにパンの耳を浸して食べるだけの単調極まりない食生活を送り続けた者たちが、毎回異なる献立にありつけただけでも一大事なのに、それが激務をこなす特殊防衛隊員の心身を支えるべく吟味された食事となれば、旺盛な食欲を誇るポンポス星人たちの受けたインパクトたるや地球人に想像できるものではなかった。まして彼らは今、そのとき以上に逼迫しているのだから。
 あの時職に就いていた4人の部下たちの3人までが仕事をなくしていた。メースは商店街のバイト先で、オースは臨時雇いの建設会社で、ミースはリサイクルショップで小金に手を出し、種族の命綱たる逃げ足で捕まらずにはすんだものの、いまや零細企業の経理職として帳簿と格闘するドースの薄給だけが5人の支えという窮状に置かれていたのだ。もはや回転寿司スシパワーの千円デーでさえ夢のまた夢という有様では、天国の食事の思い出が楽園喪失の痛切ささえ伴うのを失楽園の神話を持つ地球人になぜ嗤えよう。体に染み着いた臭いを放つカレー鍋をかき混ぜつつ実質的な家長であるドースを待つ4人から、繰り言が漏れるのも当然だった。

「ああ、あの脂ののった焼き鯖……」
「それはいわない約束じゃない。オース」
 力なく応えたメースの声にも、同じ響きが滲んでいる。
「ボース様。あたしたちいつまでこんな生活してなきゃいけないんですか?」
 すがるように訊ねるミースだが、侵略者の親玉にして作戦立案権者とて、そうそう威勢のいい答えも返せない。
「……あのにっくき真柴リーダーさえB・i・R・Dジャパンから追い出せれば。だが、どうにも妙案が浮かばんのだ……」

 一同がため息をついたまさにそのとき、
「こ、これを見て下さい!」
 駆け込んできたドースが、抱えてきた数枚の看板を机に置く。その文面を口々に読み上げる仲間たち。
「工員募集」「委細面談」「高給待遇」「作業服貸与」
 そして4つの声がそろって読み上げる最後の一文こそ、貧窮に喘ぐ彼らにとっての天の声だった。
「勤務時間に応じ食事つきぃ?」

「ど、ドース、これどこで見つけた?」
「帰り道のビルの壁に貼ってありました」
「相手とはもう会ったの?」
「残念ながら留守でした。でも先を越されないよう見つけた看板は全部はがしましたから、明日みんなでここへ行けば!」
 おおっと上がる歓声と拍手の中、太った首領がひょろひょろの部下を抱きしめる!
「でかしたぞドース! ようし前祝いだ。明日に残す予定だったこのカレー全部食ってよし!」
「さすがボース様太っ腹!」「一生ついていきますぜ!」「あなたの部下に生まれてきて本当によかった!」
 たちまち数ヶ月ぶりの宴会モードに突入した5人の中に、その字が地球人に見えない色で書かれていると気づいた者はいなかった。



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https://www.alldesu.com/diary/78329



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https://www.alldesu.com/diary/78294

コメント

もも

2021年 12月22日 04:04

お仕事
決まると良いですね

ふしじろ もひと

2021年 12月22日 04:39

もも様おはようございます。
決まることは決まるんですが……(汗)

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