＜『史上最低の侵略』その２＞
Ａ

take-02

DECEMBER 1ST PM 13:37

　希望のツバサからの攻撃は、だがインペライザーの顔面に位置する砲頭からの攻撃に阻まれ、ゼロの救出はならなかった。

「くっ！　リーダー、インビンジブル・フェニックスは使えないけど、フリージング・クレッセントよ」
　サヤが叫ぶより早く、希望のツバサは黄金色の輝きを纏っていた。
　ウルトラマンエースのギロチン光線技を思わせる巨大な絶対零度の鏃が、黒鉄色の巨人を縦に真っ二つにする。すかさずゼロも一瞬の隙を利用して脱出する。
「やったで……って、な、なんでやねん？」
　真っ二つになったインペライザーは、何ごともなかったように緩やかに、元の姿に戻っていく。

“……！おかしい。インペライザーが復元するのに、時間がかかり過ぎてる”
　立ち上がり、ファイティングポーズを取るゼロの中で、ソラが首を捻った。

　アリーナのミッションルームで、メカフェチのレオンもまたソラと同じ違和感を感じていた。彼はすぐさま真柴リーダーからのビームスキャンデータをチェックする。

「リーダー、レオンです。これはインペライザーではありません」
「はあっ？　レオン、どういう意味やねん」
　希望のツバサから、個性的な三機の戦闘機に分離し、バロンのコクピットから、タカフミが返した。

「インペライザーはこの宇宙でも貴重な、今は消滅したエンペラ星の鉱石、インペルクラウンメタルで造られたモノです。
しかし、今目の前にあるインペライザーには、インペルクラウンメタルは使われていません」
「偽インペライザーなのね。タカフミ、サヤ、ゼロを援護するわよ」

“偽インペライザーだと？　二万年早いぜっ！！”
　ゼロが激昂しかけるのを、ソラがクールダウンさせた。
“偽インペライザーとて、スペックはかなりのモノだ。慎重に行こう。
　おそらくこの偽インペライザーを操るモノこそ、ジュディさんが言ってた侵略者に違いない”
　ソラはまだ暑さが残るあの日、そっと握らされたメモを思い出していた。


SEPTEMBER 8TH PM 23:45

　旧湾岸通のキャバレー『ＴＡＴＯＯ』　その夜のメインアクトは、どんなアーティストでも完全にコピーするＦＡＫＥによる、エルビス・プレスリーだった。

　ソラはタカフミと共に、テリーが去った今はトップのＦＡＫＥの歌を聞きに来ていた。

　ＦＡＫＥのステージが終わり、ソラとタカフミはカウンターに移り、飲んでいた。
「俺はビール、ソラ、何するんや」
「プレスリーですから、ラムコークで」
　ビールが体に合わないソラはワインを頼むことが多いが、この店はワインが少ないためカクテルを注文した。

　ソラはテリーとの別れ以来、月に一度のアマチュア達のライブに、毎回ではないが参加していた。
　いつかテリーが帰って来たら、また歌いたい。
　歌うことが主のソラが客として久々に足を運んだのは、野球ゲームでタカフミに負けて付き合わされてのことだった。

「しかしまあジュディさん。七月はボブ・ディラン、先月はジェームス・ブラウン。完璧過ぎなコピーやな。凄過ぎるわ」
「それは当然ね。ＦＡＫＥはババルウ星人よ。……もっとも戦うのに嫌気がさして、脱走してきた難民だけどね」

　ビールとラムコークをタカフミとソラの前に出す女主人、ジュディ寺尾。そういう彼女もまた、元侵略者だ。
　別な銀河系からの侵略者エージェントの一人だったが、工作員として地球で暮らすうちにこの星を愛し、仲間を裏切って脱走したのだ。
　そんな彼女のかつての同胞たちを破ったのが、当時の地球の守り手たる高潔なる真紅の勇者、ウルトラセブンだったのだ。

　今のジュディはキャバレーのオーナーであると同時に、市長からこの旧湾岸通の動向を探る役目も与えられている。

　ここ夢野シティはその人口の約一割が、地球で暮らすことを選んだ異星の客達だ。

　その内の八割は地球人として地球の法に従い、就労や事業をすることで平穏な日々を過ごしている。
　しかし地球にやって来たものの、風俗や習慣の違いに馴染めなかったり、その日その日をカツカツで暮らす者もいる。ここ旧湾岸通りは、そんな者たちの吹き溜まりでもあるのだ。

　そんな思いに耽るソラの手に、そっと握らされた小さなメモ。目を上げた彼にあえて視線を合わさず、何気なさそうな小声で歌うジュディ。

♪百万本のバラの花を 貴女に貴女にあげる♪

　ジュディが口ずさむ『百万本のバラ』　それは侵略者の到来を警告する隠語にほかならなかった。



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