「人々がお金に支配される」という現代文明だった。資本主義、旧社会主義、１９４５年で滅びたとは言え、ナチスやファシズムも含まれる。お金がないから、薬価収入のため、医療用麻薬も投与せざるを得かったし、身障園生たちはもちろん、職員たちも結婚どころか、恋愛もあきらめざるを得ない状況だったわけである。障碍者問題や施設問題とは明らかに違う問題である。島田に行った人たちは他の施設や障碍者関係に関わっている人たちと話が合わないわけだが、それも当然である。僕とか、後続で島田療育園に行った身障運動家たちも、他の身障者と話が合わなくなっている。

　　もっとも、「お金に支配されている」は近代以降、否、古代以来の全ての人間の状況だが、この問題は明日にでも改めて書きたい。

　　本当はハンセン氏病関係もそうであるが、僕が多磨全生園を訪れた頃はまだライ予防法の事は隠ぺいされていた。元患者も、医者や職員も知らなかった。隠ぺいは悪いことだが、お陰で僕も全生園では、現代文明の矛盾にも気が付かず、従って、ハンセン氏病差別の正体も見えなかった。島田の事が小説に書けて、全生園が書けない理由もその辺だったと気が付くわけです。（確かに、隠ぺいは醜悪。あってはならない。でも、島田療育園は隠ぺいもできないだけ、事態が切迫していたわけである）。

　　以上も今は現代文明が終わりつつある歴史的転換期だから僕にも判り、客観的に島田療育園も見る事ができて、小説にまで書けているわけである。そこに行って良かったと思う。そこに連れて行って下さった人たちにも感謝しています。