*あってはならないことなのに
翌日から省次は機龍の問題点を洗い直す作業に着手した。それは湯原教授から託された願いであり、一族に向けられる理不尽な恨みに対処する手段も結局それしか見いだせなかった。考えれば考えるほどつのる割り切れぬ思いにもかかわらずゴジラに挑むごとに犠牲が出るのも厳然たる事実である以上、それ以外にすべはなかったのだ。
だが湯原教授という相談相手を喪った今、残された手がかりはもはや機龍だけだった。考えあぐねた結果、省次はゴジラの脳と接続されたAIに脳波の解析機能を追加することを思いついた。ゴジラの脳が発する脳波がどのようなものなのか、それを人間の脳波と比べれば、感情や思考めいたなにかを読み解く手がかりとなるかもしれない。なにが起こっているかがわかれば、対処方を見いだすこともできるのではと。
飛躍はいくつもあるはずだったが、省次はあえてそんな作業に没頭した。機龍のサイボーグ化をより押し進めることになりかねないとの思いもなくはなかったが、わからないまま放置するより危険は抑えられるはずとも思えたし、いざとなれば手動操縦へと切り替えられるよう既にプログラムは改修している。省次もまた英理加と同じく自分たちに向けられる仕打ちへの鬱憤をゴジラやゴジラと見なさねばならなくなってきた機龍にぶつけるしかない状況へと追いつめられていた。
だから省次は英理加にメールで現状を包まず知らせ、その上で湯原教授の遺志でもあると伝えゴジラについての情報を求めた。するとこんな返信が届いた。
あの原発での戦いで、明らかにゴジラが原発より機龍に気を取られていたことには気づいていたのね。でもあの時、ビオランテや私に機龍がどんなふうに見えていた、いえ感じられていたかはわからないでしょう。少なくとも私には、機龍の内部の生身の、ゴジラの部分がおぼろげに感じられた。それを機械や外装などの異物が覆っているものとして。以前の戦いまではそう見えていなかったものが。だからあの時、私はビオランテをあえて原発に近づけた、ゴジラが原発に気を逸らされるか確かめたかったから。その結果、もはや科学者としての私には、ゴジラにも機龍がそう感じられている可能性を否定できなくなってしまった。あってはならないことなのに。
おかしいのではと省次は思った。奔放なまでに変貌し続けるビオランテのことを思えば、今になってゴジラのように見えたり感じたりするようなことがあるのだろうか。これまでになかった見え方をするようになったのであれば、それはそれだけゴジラからかけ離れた存在になった証のはずで、ゴジラにも同じように見えていると結論づけられるものではないのではと。そう考えを纏めメールした省次の胸の中では返ってこない返信を待ち続けるにつれ、得体の知れない予感めいたものがじわじわと広がり始めるのだった。
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光る携帯の画面から、顔を上げた女がさらに振り仰ぐ。白衣は闇にうっすら浮かび上がるが、仰いだ顔は暗がりに溶け、視線の先にあるものも闇に呑まれたままだ。にもかかわらず、女は闇の彼方を見据えた。暗がりの中の目はもはや闇に阻まれることなどなかったから。
その目が捉えるものに、だがおぼろな白衣がおののく。そしてはるか頭上に呼びかける声もまた。
「……違う、違うわビオランテ、そんな姿はおまえじゃない」
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コメント
もも
2021年 01月23日 13:24
今回は内面ですね
ひとちゃん
2021年 01月23日 13:40
こんにちわ、ここまで深いゴジラ分析!
オールギャザーのゴジラ博士ですねヽ(^o^)丿
私は表面でしか、知らないゴジラ物語ですが
こちら機龍は好きだったな、予告の5分でも
楽しめる。とくに釈由美子さんが 逞しい人でしたね。
私も好きになり、機龍のソフビを1体部屋に
お飾りしています黄色い目の下に赤いラインが
特徴の機龍ですた☆彡
ふしじろ もひと
2021年 01月23日 15:55
もも様そろそろこんばんは。
文字で書くお話は映像のような場面描写よりも内面の描写の方がやはり向いているものですから、つい……(汗)
ふしじろ もひと
2021年 01月23日 15:56
そぼく純さまそろそろこんばんは。前段の論考(というのもお恥ずかしいものですが)もご覧くださりありがとうございます。
あの文章にも書きましたように、僕にとって機龍は初代ゴジラを内包する点にこそ惹かれるものがありましたので、ここではその点をより前面に押し出しつつ、同じくゴジラに起源を持つ人工的な怪獣でもあるビオランテももう少し深掘りしてみようと思った結果、このお話が生まれたのでした。スケッチの域を出ないものですが、そろそろ終盤に差し掛かってきましたので最後までお付き合いいただけましたら幸いです。