＜ゴジラ映画にみる戦争体験の風化　７＞

＊初代ゴジラを機龍に変えてしまう時代としての現代　１

　前作『ギドラ』のスタッフがゴジラをリニューアルする過程でその意味論に踏み込む危険性をプロとしてのリスク回避から意識的に避けたのだとしたら、『ゴジラｘメカゴジラ』（以後この映画を『ＭＧ１』と表記します）のスタッフはある意味『ゴジラ』のスタッフと似たことをやっています。つまりゴジラ（というよりこの映画においてはメカゴジラ）にリアリティを持たせるため背景である社会の姿に現実味を持たせようとした結果、時代の鏡になってしまっているのです。
　そこに映し出された社会の姿は昭和２９年当時の姿とはおよそかけ離れています。その結果初代ゴジラは血肉の代わりに金属で覆われた姿に変貌させられたともいえるのです。

　メカゴジラというキャラクターは昭和のシリーズの最末期に当時正義の味方であったゴジラを圧倒しうる宇宙人の超兵器として生み出されました。平成に入って今度は人類の対ゴジラ兵器として登場しましたが、宇宙人ならともかく人類の技術でそうそう無茶な超ロボットは作れないという妙な良識が働いたのか、確かにこの程度のものならがんばれば作れるかなあという意味でのリアリティはありましたが、ただでさえ強すぎる設定のｖｓゴジラの前ではデクノボウにしか見えない代物でした。

『ＭＧ１』におけるメカゴジラ＝機龍は初代ゴジラの骨に機械のボディを被せるというアイディアで、なぜゴジラの姿をしていなければならないかという説得力を持たせるとともに、機械だからではなくゴジラをベースにしているからゴジラに対抗できるのだという意味付けがなされています。機械に力点をおけば技術力の勝負になってしまいｖｓメカゴジラの２の舞だったはずなので、ここは過去の失敗に学んだ部分もあるのでしょう。
　しかももとがゴジラであるがゆえに人間の手を離れてしまえば人間の手で生み出された怪獣になり果てるというゴジラ本来の属性も備えています。映画館で機龍の暴走シーンに接したとき僕は快哉を叫びました。これは本当の意味でゴジラの復活だと悟ったからです。
　この映画の核心はゴジラ自身が『逆襲』以来封印してしまった属性を機龍が初代ゴジラの骨を取り込むことにより受け継ぐまでにメカゴジラという設定を掘り下げたことに尽きます。いわばここでは初代ゴジラが人間によりさらに冒涜されおとしめられた姿で逆襲ゴジラの末裔と戦わされているのです。だからこの映画のゴジラはもはやミッションターゲットでしかありません。ゴジラのゴジラたるゆえんは全て機龍に背負わされているのです。

　このような機龍にリアリティを持たせるべく、『ＭＧ１』のスタッフはかつて『ゴジラ』のスタッフが背景を戦後１０年たっていない時代に愚直に似せようとしたのと同様、２１世紀初頭の日本の姿を無批判的に写し込もうとしました。『ＭＧ１』が機龍をここまで掘り下げておきながら傑作とまで呼び得ない映画になったのはここで批判精神が働かなかったからです。『ギドラ』のスタッフに比べ自覚に乏しいと感じるのは機龍と背景の彫り下げのこのようなバランスの悪さゆえです。しかしそれゆえに、この映画は現代がいかに『ゴジラ』の時代から遠ざかってしまったかを身も蓋もない形で見せつけていると僕は思います。


その８　→
https://www.alldesu.com/diary/70077



←　その６
https://www.alldesu.com/diary/70041