「黒服の女が門前に? カメラ出して!」
真柴リーダーの命令にスクリーンが来訪者を映し出す。血相を変えて立ち上がるソラ。肩越しにちらりと視線を投げかけ、再びスクリーンに向き直る真柴リーダー。
=責任者に話がある、中へ入れろと言い張ってますが=
「だからって通せないでしょ? 私がそっちへ行くわ」
「いっしょに行きます!」
部屋を出た二人と入れ代りに戻ってきたサヤ。誰もいない部屋を訝りつつ見回しているうち、その目がスクリーンに映る女にとまる。
「まさか、これがソラが会った女?」
サヤが音声スイッチを切り替えたとたん、ソラの怒声が部屋に響く。
=テラはどうした! どこへ隠したっ=
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「な、なにを……?」
ただ者ならぬ若者にいきなり詰め寄られ、女が顔をこわばらせる。
「待ちなさい、ソラ。それじゃ話にならないわ」
はやるソラを制する真柴リーダーも、厳しいまなざしを黒衣の女に向ける。
「私は真柴、この施設の責任者よ。まずはお名前をうかがえるかしら?」
虚を突かれた表情が一瞬葛藤の色を帯び、やがてぽつりと一言応える女。
「……ヒロコ」
「ヒロコさん、ね。それでは、改めてご用件を」
そういわれ、我にかえったように女が口を開く。
「ここに連れ込んだあの5人は恐ろしい怪物よ。あらゆる生き物を取り込んで無限に力を増してゆく。どうしても倒さなければ。だから中へ入れて!」
「人間の血液を持ちながら高い怪獣反応を示す。話の通りなのはおまえじゃないか!」
「確かに私は人間じゃない。だからこそ奴らを倒せるの。お願い信じて。私を中へ!」
掴みかからんばかりのソラを制しつつ、女にいい放つアリーナの長。
「あの5人は宇宙人、逃げ足だけがとりえのコソ泥よ。それよりあなた。自分を怪物だと認めておいて、この私が通せるわけないでしょ?」
「ま、間違いだというの? そんな……っ」
一瞬の動揺の後、さらに切迫した顔で叫ぶ人外の女。
「とにかく確かめないと。なにがなんでも通るわよ!」
「逃がすかっ」
止める間もあらばこそ地の影に溶け込む女の腕を掴んだまま、地面に呑まれるオッドアイの青年!
「ソラ! なんてこと……っ」
さすがのB・i・R・Dジャパンの女隊長も、固く閉ざされた地面に蒼白の顔を向けるばかりだった。
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全身を覆う異様な感触に、掴んだ手をソラが思わず放しかけたとき、その脳裏に女の音ならぬ声が届く。
>ここで放してはだめ! 次元の彼方に流されたいの?<
身をこわばらせたソラの腕を掴み直す女の手が、だが突如として捻れ変形してゆく。
>正体を現わしやがったな!<
ソラの体を背後から支える青い腕。驚くソラの目に肩越しに映る若きウルトラ戦士の精悍な顔。
>あなたたちは2人なのね、あくまで……<
声のする方へ向き直ったソラの正面に浮かぶ、もはや人の形をしていない影。おぼろで形の定まらぬ、蠢く闇が女の姿と混じり合い侵食し、1つに溶け合ってしまっている。顔から喉にかけての部分だけがかろうじて人の形を保っているが、その目には深い悲嘆と自らへの覆い難い嫌悪を背景に、まぎれもない羨望の色が浮かんでいる。だが振り払うようなしぐさとともに、その瞳に宿る鋭い光!
>私が追っているのはこれと同じ、全てを侵し同化してゆく闇。私たちはこれを異星獣、スペースビーストと呼んでるわ。だからもう邪魔しないで! どかないと怪我するわよっ<
言葉とともにおぼろな影の肩から実体化する何対もの腕。その二の腕から腕の長さに匹敵する長大な爪が伸びたとたん、黒い阿修羅と化した女が一気に切り込んでくる!
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「ご覧なさい。ハイパー・エレキングの復活よ!」
囚われのテラの目の前で、塔ともまがう巨大な水槽の前のコンソールを操作する少女の姿をした侵略者。培養液の中で急成長してゆくエレキングの肉体に、無数のパーツやユニットが埋め込まれてゆく。
だがその巨体に目を奪われ、二人のどちらも気づけなかった。少し離れた床から染み出た影が、培養塔を目指しじわじわ流れてくるのを!
コメント
もも
2020年 07月18日 01:52
女の戦いは小説でも怖いですね
ふしじろ もひと
2020年 07月18日 03:06
もも様こんばんは。しかも訳ありですし(汗)