「テラが行方不明?」
ソラの顔もたちまち青ざめる。
「食事をしに外出したようだけど、フロントの話では帰ってきたロビーで若い女が話しかけてきて、あわてた様子でついて行ったきり戻ってないの。荷物も部屋に置いたままで」
「若い女、ですか?」
「身なりは一致しないようなのだけど……」
ソラも真柴リーダーも、脳裏にあるのはあの黒衣の女だ。直接相手と対峙したソラはもちろん、大げさな表現を多々含みつつも恐怖に裏付けられた迫真性を感じさせずにおかぬ5人組の証言に接していた真柴リーダーもまた謎の女がただ者でありえぬことを思い知らされていた一方、その正体には全く見当をつけられずにいた。だから自分たちがテラを案じるあまり、出会ったばかりの相手をいささか短絡的に疑っていることを自覚しきれずにいたのだった。
”あの女、まさか僕の動きを封じるために?”
”おいソラ。それは少し考えすぎじゃねえか”
”じゃあ、他に誰がいるんだよ!”
黙り込むゼロ。彼もまた謎の女の秘めた異様な力を感じ取っていた上にエレキングの出現の直後でもあり、あの女がその件とは無関係と信じる根拠を持っているわけではなかったのだから。
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事情を話すのもやむをえない。それが結論だった。
できれば秘密裏にビーストを倒し、この世界から去りたいのが本心だった。ビーストも自分もこの世界にいるはずのない存在であり、これまでもずっとそうしてきたのだから。だがもうそれが可能な状況でないのは、彼女の目にも明らかだった。ビーストを宿した者を連れ去ったのは、どうやら彼女の世界のTLTに似た防衛組織のようだが、ビーストについては明らかに無知であり、邪悪な影が牙を剥けばたちまち内側から蹂躙されるに違いない。それはなんとしても防がねばならなかった、
自分が宿すビーストの力で潜入することも考えたが、それでは混乱を招き狡猾な敵に人質を取られるリスクが高すぎる。円盤のときの二の舞を繰り返せば、どれだけ被害が出るかわからない。自分が怪しまれている以上容易に納得してもらえないだろうが、どう考えてもわけを話すしか選択枝はなさそうだった。
基地の所在をつかんだときには夜明け前になっていた。人間の姿のままでは空を飛べないが、空が白み始めた今となっては変身すれば騒ぎは必至。費やした時間は悔やまれるが、かくなる上は明るくなったことが相手の警戒をやわらげてくれるのを願いつつ急ぐのみ。心を決めた彼女は風を巻いて駆けだした。覚えのない嫌疑が自分にかけられていることなど、全く知るすべもなく。
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敵が走り去ったのを、暗がりに溶けた闇は感じた。
小さな闇に斬り縮められたことは、隠れる点では有利だった。だが力を大きく削がれた今、この惑星から自力では脱出できない以上、いずれは追い詰められ殺される。恐怖を食らう異星獣たるスペースビースト。不断に他の生命を食らい果てしなく膨張してゆく暴走する生の姿の権化。かつてあの女の世界で多くの人間を食らって知性や感情を得た怪物は、いまやその知性ゆえに自らの置かれた危機を知り、それゆえ焦燥と恐怖に彩られた怒りと憎悪に苛まれているのだった。この星に飛来して死んだ爬虫類の皮に潜り込み残存していたDNAを取り込みはしたものの、かの仇敵にその程度で立ち迎えるはずもなく、続いて現われた星人たちも役不足としかいいようがなかった。もし彼らに同化していたら、追い着いた敵にたちまち屠られていただろう。相手が勘違いしたおかげで彼らが標的になった偶然は僥倖というほかなかったが、このチャンスを逃せばもはや先はない。なにか、なにか力になるものは!
そのとき、どこかで命が生まれ、脈動した。闇が意識を向けたとたん、それが爆発的な勢いで成長を始めた。明らかに人為的で不自然な、成長というより巨大化と呼ぶべき凄まじい膨張に闇は歓喜した。その脈動めざして流れ始めた闇の行く手には、鉄骨の幻影で人目を欺くピット星人の基地がそびえていた。
コメント
もも
2020年 07月16日 01:01
弟さん 早く見つかると良いですね
ふしじろ もひと
2020年 07月16日 03:14
もも様こんばんは。テラの発見には実はポンポス星人たちが一役買ってたりしています♪
もっさん
2020年 07月16日 09:19
↑本当ですか!
ポンポス星人の活躍を楽しみにしています!!
ふしじろ もひと
2020年 07月16日 17:26
もっさん様そろそろこんばんは。ほんとにホントです(古っ)
まあそのせいで彼らから見た真柴リーダーの悪評は……(汗)