それは仲間以外の人たちに無関心、又は、敵視みたいな.事である。当たり前だ。

　　仲間関係みたいな事はテレビや本を通して知っていても、小学から高等部までの光明養護学校時代の僕は実感しなかった。学友との関係は、すべて個人の心同士の付き合いだったから。４人いた担任の先生たちも生徒を自由に交友させていた。でも、光明養護の先生全部がそうだったわけでもないらしく、中には「日本人としての仲間意識」を教え込み、個人ではなく、学級のグループ単位の付き合いを指導したり、何かの型にハメ込む指導の先生もいたと聞いた事もある。話は戻るが、早くから個人交友していたら、若き日の原一男氏（今は立派な映画監督）などのボランティアたちとすんなり付き合えたり、高校時代は異なる学年の人たちとも端から友人になれた面はある。

　　卒業後、二つの場で仲間という言葉を聞いた。一つは度々話している一身障会。「障碍者の仲間意識」を基に会を作り、障碍者運動していた。役員たちが話す・書く言葉も「障碍者として」が目立ち、自分の心がなく、次第に変に思っていった。もう一つは、これもたびたび話している一緒に多磨全生園や島田に行った例の福祉会。それは会の仲間意識を強調し、一時は「会として社会変革する」と僕には理解できない話も出た。でも、全生園は元患者同士の仲間意識なるものも見られなかったし、島田の身障園生同士も話もバラバラで仲間関係は作っていなかったので、光明養護時代の交友の延長で付き合え、多くのものも見て、今は小説に書けるまでに至っている。冒頭に書いた事も二つの会から非常に早く僕は判ったわけだ。内、「敵視」だが、高校時代も中国系の後輩と友人になったし、その後も今に至るまで中国系や韓国系の人たちとも付き合っているが、１００年前みたいに各民族・国家単位の仲間意識が強い時代ならば、互いに敵対か無関心になるわけだから、その愚かさも感じる。

　　１９世紀はどういうわけか、ヨーロッパを中心に国民国家の意識が強まり、公立学校を通して「民族の仲間意識」を小さい時から教えた。その流れは日本にも伝えられたのは言うまでもないが。ヨーロッパでは、上べだけ国民はまとまったが、各国民共、他国の事には無関心や見下しになり、そこに経済利害が絡むと敵対意識も持ち、戦争にもなっていった。その果てが第一次世界大戦である。確かに、他の国に無関心は困った事だし、また、仲間意識でまとまった国民間も、特に戦争で戦えない障碍者や難病患者、発想が違うユダヤ系の人たちは差別されていった。障碍者関係でも外見が目立つせいか、特にハンセン氏病患者は国家命令で強制的に隔離、収容された。日本のハンセン氏病隔離も明らかにその真似である。勿論、明治以来の富国強兵や国家主義も。その後の軍国主義も。日本の近代のそのような歴史も、１９世紀ヨーロッパ諸国の社会に根を持つわけで、日本だけを見ても事実は判らないわけである。強いて言えば、日本人としての仲間意識形成に、古来からある天皇を利用した点が違うだけで。その戦前日本の仲間意識も、特に軍関係は陸軍は陸軍、海軍は海軍で仲間意識を作り、相互には持てず、常に険悪だった。太平洋戦線で海軍は陸軍を囮にする作戦をして、陸軍に多大な損害が出て、時の陸軍大臣が激怒した事件さえも起きている。

　　戦後の日本は軍国性は禁止されたが、仲間主義は残り、特に会社関係に、会社の歌を社員に歌わせたり、社員の飲み会や旅行も推進し、会社単位の仲間意識を作り、社員の労働力をフルに引き出したことは有名。その結果、社員は仲間になったが、自社以外の事には無関心になり、また、会社の不祥事も仲間意識のために隠す例が多かったが、ＩＴの発達でそれもばれる事が多くなり、雪印、東芝、三菱電機と各事件にもなり、閉鎖性も問題になった。仲間関係には必ず閉鎖性が付きまとうわけである。

　　１９世紀ヨーロッパが書いた通りになった原因は僕はまだ知らない。例えば、「一人一人の意識を持った人間が任意の信仰により、神によって結ばれる」のキリスト教と１９世紀ヨーロッパの状況は大違いであるし。しかし、いくら経済も絡んでいるとは言え、その戦争多発の歴史を見ても、仲間関係の愚かさを感じる。星新一の短いＳＦにこんなものがあった。「ある時、軍事ＵＦＯが地球に大挙押し寄せ、それまで対立や戦争していた地球の全国家が急にまとまり、一つの政府にもなり、宇宙人に対抗しようとする。初めて地球人としての仲間意識ができる。そこで軍事ＵＦＯは消え、地球を平和にする作戦だつた事を悟る」。面白いが、対宇宙人と戦争しようとする時に、戦えない障碍者などはどうなるのかと。また、地球人の仲間意識は人々をつなぐのか。個人は尊重されるのか。愛は生れるのか。星新一の心に立ち入る気はないが、以上は疑問に思う。

　　話は戻るが、僕に仲間意識を教えた２つの会は早く潰れている。恋愛レスも目立つし、友人になれなかった間柄も非常に多い。恋愛も友情も本当は個人単位。グループ単位ではできないから当たり前である。仲間関係でできる事はコンパだけである。何もその２つの会だけでなく、当時は福祉会や身障会も仲間主義が多かった。多くの会社もそうだったからその流れであり、また、明治以来の日本の流れ、更には、１９世紀ヨーロッパ以来の流れでもある。でも、すでに個人単位のＩＴ時代だし、今は消えつつあるものである。僕も一種の歴史ものとして書けるわけである。これからはますます個人の時代になるだろう。（大事なことを付け加えると、仲間主義は徹底的にオウム真理教に利用されたわけである。その信徒たちは「麻原仏の仲間」だと硬く信じていた。無論、仏教も仲間主義は「とらわれの一つであり、妄想にしか過ぎない」と厳しく切り捨てているわけである）