以前、僕が紹介した「日本社会の歴史（網野善彦著・岩波新書）」の上巻に、縄文時代に身体障碍者や病気持ちの者たちが、生活共同体の仲間から非常に大切にされていた事を、物証を根拠に書かれていた。また、そのような事の物証が世界各地でその後は発見されている。縄文・日本だけの現象でもないわけである。その事も思い出し、このような仮説が浮かんだ。


　　人間の９９％以上は共通の遺伝子で占められている事が２１世紀になり、科学的に証明された。又、「遺伝子」の力は自然環境の厳しい時ほど、最大限に発揮される事も証明されつつある。共生遺伝子なるものがあるか、どうかはまだ科学的に判っていないが、仮に共生遺伝子が存在しなくても、厳しい状況下で遺伝子の力がフルに発揮されれば、人間同士は本当に心の底から「仲間」として認識し合い、障碍や年齢の違いもなく、同じ人間として助け合い、深く深く愛し合うのではないのか。恐らくは、以上の場合は障碍を持つ人たちも、共同体構成員たちをできる範囲で、励ますとか、サポートしていたと僕は推察している。聖書の言葉を借りれば、「地上天国」なるものが大昔は世界各地で出現していたと思われる。以上の本が刊行されたのは１９９７年。まだ遺伝子科学が発達していなかった時期だったから、網野氏もこの事には気が付かなかったのだろう。


　　ところが、その後の歴史は皆様も御覧の通りになった。身分格差・戦争・経済争い。エゴの歴史みたいに。それを批判する形で、シャカやイエスが現れ、菩薩愛、隣人愛、平等を説いた。あるいは、そのような人たちは遺伝子本来の力が何かの理由で十分に発揮されていたのかもしれないが、その後継をしたそれぞれの教団は封建制に組み込まれ、宗教戦争や魔女狩りにもなっていった。封建制という差別社会の極端な姿に各国共になり、例えば、ヨーロッパのロマなど、被差別民も固定化していったわけである。日本でも農村では、江戸時代まで生まれてきた子の間引きが行われた。特に、女の子の間引きが目立った。世界で女性差別も深刻になっていった。近代になり、資本主義がヨーロッパから発達し、封建制自体は崩れたが、共生には至らなかった。無論、遺伝子科学などは知らなかったマルクスは、身分差別などを単に経済問題とした。１９世紀の人だから、このような見方になったのも仕方なかったと思うが、経済どころではなかった原始時代に共生が深く行なわれた事は、経済中心の見方でも解釈が付かないだろう。


　　２０世紀になり、教育と通信が普及し、人々は人権について考えるようになった。それは進歩には違いないが、いくら理性を働かせて考え合っても、民族対立・宗教対立・障碍者や高齢者関係の解決策は世界に出ておらず、昨日（１０日）のニュースの通り、クルド人殺害などの戦争が相変わらず続いているわけである。


　　２０１１年の東日本大震災。急に厳しい状態に追い込まれた被災民は、あのようにものすごく助け合った。瞬間的にしろ、災害に急に遭い、彼らの遺伝子がフルに働き、縄文時代を彷彿させる状況を作ったと思われる。大地震は滅多にないにしろ、地球温暖化で強い台風・ハリケーンがこれからは更に多くなり、吹雪も増え、世界各地で似た状況が現れるだろう。その度に、まずその地域の被災民の遺伝子の力が発揮され、支え合い・共生も瞬間的に行われ、その様子をテレビやインターネットで見た人たちも感動し、瞬間的にしろ、遺伝子の力が強まり、カンパやボランティアという形で関わる人たちも増えていく。それが繰り返されれば、人類の遺伝子の力が働き、縄文社会以上の助け合いの世界になっていくのかもしれない。地球温暖化は災害が増えるから困った事だが、その状況が結果的に世界平和を招く事も考えられる。

　　世界的に増えている非婚や離婚の問題も以上の流れで十分に考えられる。歴史的に見て、結婚は次第に封建制度に組み込まれ、特に女性に犠牲を強いるものになっていった。封建制が崩れても愛情中心の夫婦はなかなかできなかったり、肉体的魅力で相手を選び合い、不幸になる例も多いわけである。心愛ちゃんが殺されたように、子供がその犠牲になる例も多い。でも、遺伝子の力が働き、夫婦が特に「同じ人間」として認識し合えば、どうなるだろう。理想的な夫婦ばかり生まれるのではないだろうか。人々は非常に幸福になるし、心愛ちゃん事件のような痛ましい事件も起こらない。身障者や、社会的な理由での結婚差別も消える。僕の脳裏に浮かんだ事だけのことかも知れないが、このような世界になれば良いと思うし、心愛ちゃん事件を想うと、そうしないといけないわけでもある。

　　勿論、僕の今後の結婚策も以上しかない事にも気が付いている。僕と誰か一女性の遺伝子の力がフルに発揮され、「同じ人間」として認識し合う。そのパターンしかないわけである。クルド問題ともつながっているわけである。