７７、８年を思い出すと、麻薬投与や虐待、職員ストなどの状況を見て、僕もそうだし、そこに行っていた人たちはよく「行くだけ・お手伝いや話し相手するだけでは、始まらないのではないか。ボランティアや身障運動としてではなく、活動を仕事化する必要があるはずだ。でも、簡単に職員にはなれないし、仕事としてやるにはどうすれば良いか」と話したものです。その映画化を考えた映画好きの人もいたようですし。何も僕の入っていた福祉会だけでなく、そこに来ていた多くのボランティアや身障運動家たちの想いでもありました。考え込み、答えが出ず、そのまま止めて、後悔した方たちのお手紙も読んだ事もあります。当然、昔の僕も判らなかった。たまたまケンカに巻き込まれ、早く止めざるを得なかったですが、それがなくても、「行くだけでも始まらない」と僕も思い、行き始めてから２年くらいで、止めたでしょう。むしろ、「ケンカ」は僕にとっての島田療育園の印象を非常に強めたから、良かったと気が付くようになりました。


　　中には「大学を卒業して、就職し、各職場で生かせば良い」という意見もありましたが、そのような事は実際は困難だったようです。「人体実験」みたいな事を生かせる職業は医者くらいですからね。また、「島田からは何もできないのさ」と言って、そこに行くのを止めて、自分の住む地区の子供会の子供たちに全生園に行かせて、僕とも付き合っていた伊藤まつさんと交流させた例もありました。残念ながら、その人とは早くに縁も切れたため、子供たちの感想みたいな情報は一切伝わりませんでした。その人なりに考えてした事ですから、僕は何も言いません。そういう例もあったわけです。

　　　時は経て、２０１０年ごろでしょうか。僕はまず島田と同じころに行ったハンセン氏病療養所の多摩全生園の様子を小説として書いて、仕事化できないかと思い、まずは夏目漱石全集を読み、小説の書き方を自分なりに掴み、それを書き始めました。結局はそこは僕としての問題意識は元々持てない所だったし、全生園の様子は多くの元患者たちも書いているから、僕が書く必要もないと思い、止めました。でも、結果的に小説書きの練習になり、島田の様子を断片的にいくつも書いた後、今度はその小説化を思い立ち、去年から書き始めているわけです。それは若い時の僕と同行仲間、更には、多くのそこのボランティアたちの「仕事化問答」の答えの一つでした。この種の答えは本当は多様だと思うから、別な形の答えもあるし、すでにお出しになっている人もいると思いますが。

　　振り返り、僕に限らず、島田活動のこの件の悩みは極めて深かったと思います。行くだけ、お手伝いするだけ、園生への話し相手をするだけならば、本当に「遊び」にしかならないわけですからね。また、島田小説を書き始めて気が付くわけですが、僕もそうだし、行った方のかなりは島田の人たちに恋愛感情を濃くした気持ちもあったわけです。当時は発見されていませんでしたが、脳内快楽物質の「エンドルフィン」が行った人たちの脳に分泌されていたと見ています。そして、今の僕は小説を書きつつ、昔以上にエンドルフィンが脳に出ているのかもしれません。超恋愛感覚で書いているようなものです。

　　　令和新党の二人の身障議員の件から「身障者にとっての仕事とは何か」が問われていますが、島田の件はもっと深く、強いて言えば、歴史とか神が我々人間に「仕事とは何か」を説いているようですね。因みに、問題になっている資本主義も、最初はキリスト教プロテスタントの「神が与え、神と人のために奉仕する目的としての仕事」が目的でした。それが歪み、今の形になっていったわけです。


　　（因みに、小説の内容は、これからは各病室の様子も詳しく、しかも、分けつつも、平等に書いていきます。僕は身障者ですが、身障室に偏る書き方は絶対にしません。次章は、むしろ、最重度で重複障碍ばかりの室がメインになるわけです．．．)。