まず、僕自身の事。このシリーズでは一番書くべき事ですよね。島田を訪問した１９７７、８年はよく福祉会の仲間に「僕は友人として、関わっている」と言ったものです。でも、話し方のうまい園生Ｋ氏に肩入れするようにもなり、まずくなった事は先に述べましたね。それ故、複数の激しいケンカも経験し、挫折感を持ちつつ、退いたわけです。その後、ボランティアとしての関わりも、友人としての関わりも、素人関わりには違いなく、大差がない事に気が付きました。何も島田に関わらず、他人への関わりは仕事を通さなければ成立しないのではないかと思うようにも。でも、僕にとっての仕事とは何か？という問題もあり、島田の事は長い間、棚上げして、好きな子供向け文に専念したわけです。


　　１９７４年の小林博士。そのように自己批判したならば、後に続く者たちに「福祉のプロ意識を持て」と言うべきだった。それを言えば、展開も変わったはずなのに。無責任にも感じます。でも、誰でも他人の心の内面を深く知る事はできません。言えない理由が何かあったのかもしれない。また、ウツ状態に陥っていたのならば、精神医学の次元の問題であり、「無責任」と指摘する事はできません。その判別も精神科医以外は不可能です。それ故、この件はこのくらいにしておきます。但し、２代目園長はもっとおかしかったようで、人体実験も増えたし、次第に園児・園生の外出も制限するようになりました。８３年の激しい紛争もそのような背景がありました。


　　職員たちのかなりは福祉のプロ意識がありましたね。以前も述べたように、園生Ｍ氏の人体実験の手記作りに協力したり、医療用麻薬を陰で捨てていた職員もいたわけです。あるいは、声量が非常に弱く、寝たきりの園生の代筆を一生懸命されていた男の職員の姿を僕も拝見していたわけだし。でも、僕が去った数年後は。どうしたのでしょうね。身障ミニコミ誌からは、投げやり的な姿の職員の事しか伝わってこなかった。かなりがプロ意識を忘れたとしか、思えないわけです。

　　島田療育園から離れますが、器質性の暴力癖もあり、重いテンカン発作を持つＸ君の件に、僕も所属していた福祉親睦会の人たちは一生懸命関わろうとしたわけですが、一人、足のやや不自由な看護学生は別の姿勢。こんな事を言っていました。「ボランティアは悲しいものだと。Ｘ君への関わりも止めた方がいい。友人として、と言っても、実際はボランティアに過ぎない。」。何故、悲しいか？などの説明を欠いていますが、本当に関われなかった。その看護学生は最初は方々の施設関係にボランティアとして関わりましたが、限界を感じて、早くに止めています。それほど、極端ではなくても、早くボランティアを止める人も多く見てきました。

　　以上は、ボランティアとか友人としての関わりは「深みがないから」で一切説明が付きます。ボランティアは誰でも広い種類やれる代わりに、深みがなく、従って、関わりも中途半端になる。気が合う人としか関わらないとか。小林博士の場合、日本人特有の聖書の愛の誤解もあったかもしれない。聖書の愛は、敵の国の人も深く愛して関わるだけの深いものがありますが、それを善意と混同した。その事に退職の時に気が付いた事も考えられます。それは、もっと深刻な例も多いわけです。僕の行った教会関係の牧師たちも当たると。聖書の愛を体得していれば、レイプも、隠ぺいも行なわないのに。

　　最後に、僕の場合、「深み」の答えを「島田の小説化」という形で自分なりに出したわけです。僕は文しか書けないのならば、答えと仕事もそうなるわけです。良かったわけです。これから新しい章に入ります。１９６５年末の時点で、はつらつとしていた小林博士が７４年には「疲れました」になっていく。その変化と、そのようにさせた嶋田と社会の状況も描きます。