*銃声
「勝手なことをするな芹沢!」
「そ、そうだ。機龍は国防の要だぞ」
その声に振り向いて、敵意を剥き出しにした武部と腰の引けた山川を認めた省次だったが、いっていることがわからなかった。訝る若者は、そのまま言葉を返す。
「どういうことです。ゴジラはもう現れることがないんですよ。対ゴジラ兵器はもう要らないんです」
「お、おまえは状況がわかっとらん。機龍と同等のロボット兵器はもはや各国が開発に入ってるんだ。同盟国アメリカには我が国も技術資料を提供しているし、中国やロシアも対機龍を想定した軍用ロボットを極秘開発している情報を確認している。後戻りはできないんだ!」
唖然とする省次にいい募る山川。
「だが、それらにはゴジラの神経組織に相当するものは組み込まれていない。しかも彼らには手に入れるすべがないんだ。今なら機龍の優位は揺るがない。この機を逃してはならんのだ!」
「……この機を逃さず、どうする気なんですか!」
「アメリカとともに、我が国の危害たりうる相手を制圧する」
若者の脳裏に、アメリカで開発されているという機龍に似たロボット怪獣軍団が、性能の劣る相手方のロボットを機龍に粉砕させつつ進軍する光景が浮かんだ。おそらくは敵味方のいずれもが駆動時間の要請から原子力を動力とし、通常兵器では全く歯が立たぬ機械獣たちが戦うごとに放射能汚染をまき散らす地獄図が。たまらず省次は絶叫した!
「そんな! また無謀な戦争を始める気なんですか! そんなこと誰だって望むはずないじゃないですか!」
「短期決戦で絶対の安全が手に入るんだ。国民は必ずやわかってくれる」
山川の言葉に、まさかと思い目を向けた省次に告げる武部。
「七十年もの間、俺たちばかりが膨大な犠牲を払い続けてきた。もう二度とこんなことは許せない、絶対に!」
ああ、ゴジラが現れるたびに一方的に蹂躙され続けてきた数多の同朋たち。確かに親を、子を、あらゆる身近な者たちを亡くした者たちがそう願うのは当然だろう。代償になるものなどないとわかっていても、せめて子や孫たちが安全になるのならと思ってしまうのも無理はないのかもしれない。だが、
「……気持ちはわかります。でも……っ」
声を絞り出す。両脚を踏ん張り武部の、というよりその背後の膨大な人々からの圧力に抗しつつ。
「それはやはり欲望です。願いとして許される域を越えてます。わからないんですか!」
若人は叫ぶ! 巨大な割れた顔と残骸ばかりの神殿のごとき、溶ける気配すら見せぬ湾内を指し示しつつ。
「これまでどれだけこんなことが起きてきたか! これでもまだ続ける気なんですか!」
「ならばどうするつもりだ芹沢!」
「機龍が勝利の切り札だからこんなことを考えたのなら、彼には海へ帰ってもらう。そんな戦いの火種になどさせるもんか!」
すまない機龍。命令などしたくはなかったが、なにがなんでも君はここにいてはいけないんだと心の中で念じつつヘルメットを手動モードに切り替えようとした瞬間!
「裏切り者!」
叫ぶやの銃声一発! 胸を焼け付く一撃に撃ち抜かれ背中から倒れた衝撃のあまり手も脚も動かせない。機龍への言葉は溢れる血反吐に呑まれ、目を灼く光もたちまち闇へ暗転する。苦悶すら薄れゆくなか自我さえ形を保てなくなり、ついに全てが虚無へと還りゆく……。
その43 →
https://www.alldesu.com/diary/75937
← その41
https://www.alldesu.com/diary/75509
コメント
ひとちゃん
2021年 07月29日 13:05
これまでの機龍復活から1部2部~3部と
機龍の勇ましい戦いを、見せて貰えました。
しかし悲しみも・・
もも
2021年 07月29日 18:48
撃たれちゃったんですか?
ふしじろ もひと
2021年 07月29日 22:59
ひとちゃん様こんばんは。
悲しさについては、なんといっても初代ゴジラのエンディングはシリーズ中屈指のものでしたね。
ふしじろ もひと
2021年 07月29日 23:02
もも様こんばんは。
そうです。撃たれちゃったんです……。