ふしじろ もひと

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ふしじろ もひとさんの日記

2021年 06月03日 20:37

私家版(地下版?)ゴジラ案:その40

(Web全体に公開)

*怒りと恨みの果てに

「君たちが僕たちを許せないのはもっともだ。知らなかったこととはいえ、人間は水爆実験で君たちをそんな姿にさせたばかりか永遠の苦悶に落としたのだから。でも、君たちが知らないこともあるんだ」
 相手の注意がこちらに向いている気配はあったが、ヘルメットから感情の高ぶりは伝わってこなかった。固唾を呑みつつ省次は続けた。
「僕たちは君たちがどれだけ長く生きるのか知らない。君たちもきっとそうなんだろう。でも君の子は七十年たっても同じ様子で生きていた。だったら多分、人間は君たちが思っているほど長い寿命の生き物じゃない。君たちに水爆を浴びせた者たちは、もう誰も生きてはいないんだ」
 とまどったような感触があったので若者は口をつぐみ静止したままの機龍を見守った。何かいおうとした山川を遮りながらも、鷹のような目でこちらを見やる武部を視野の端に捉えつつ。
「そう、君たちが人間の前に初めて姿を見せたときは確かに彼らも生きていた。でも彼らは年々数が減ってゆき、君たちの犠牲になったのはとっくに子や孫たちの数の方が多くなってしまった。僕たちにとっては、生まれる前に起きたことのせいでいつまでも酷い目に遭わされている、それが今生きている僕たちにとっての実感なんだ」
 言葉を切って様子を窺ったが、とまどうような感触はなかなか納まらなかった。言葉でなくては伝わらない事柄はやはり時間がかかるのかもしれない。でもあまり時間をかけると原子炉による充電が進み、いずれ動けるようになってしまう。相手が聞くことしかできない今のうちに伝えるべきことは伝えなければと思い、省次は話を続けた。
「君たちから見た僕たちはあまりに小さく取るに足らない生き物かもしれない。でも二匹しかいなかった君たちに対しちっぽけな人間たちは一億、といってもわからないかな。とにかく大変な数なんだ。それが理由もないのに水爆で酷い目に遭わされた君たちのことを、俺たちのせいじゃないのにいつまでも俺たちを酷い目に遭わせると恨んでるんだ。想像できるだろうか?」
 話しながら省次は痛感した。人間同士の争いも長く続けば全く同じ状況に陥るのだと。自分たちを被害者としてしか感じられなくなり、どこまでも相手を責めるしかなくなる。妥協点を見出す機運など生じる余地すらなくなり、ついには世代を越えて紛争が延々と受け継がれてしまう。わき上がる情けなさを若者はあえて相手から隠さなかった。そんな思いが相手に少しでも届くことを願って。
「僕たちは力では君たちに全く太刀打ちできないが、だからこそ君たちのことを恨みに恨んだ。君たちを、というよりも君の子を倒すためなら手段を選ばなくなり、ついには死んでいた君さえも利用するため甦らせた。一人では取るに足らない僕たちも、力を合わせればそんなこともできてしまう。いわば君たちは、無数の恨みにここまで追い込まれたんだ。その結果、君の子は討たれてしまった。人間の命令に逆らいきれなくなった君の手で」
 またもヘルメットから押し寄せる感情の大波。だがそれは先のような怒りや悔しさよりもずっと悲しみの色が強いものだった。省次はそれに逆わらず身を委ねた。決して短くはない間、若者は己が心を機械に閉ざされ繋ぎ止められた巨獣の心に寄り添わせ、溶け合わせた。それはもはや、判断というより彼自身の思いが、共感がなさしめるものだった。
 ようやく大洋に凪が戻り始めたとき省次は告げた。相手にというよりむしろ、その心に溶け合った己にいい聞かせるように。
「機龍、僕は君に今の人間にはもう君たちに直接手を下した者は生き残っていないといった。だから君たちは無数の恨みを返されたのだと。でも君を今の姿、在り方にした者ならたった一人まだ生きている。それは僕だ。僕なんだ」


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コメント

もも

2021年 06月03日 23:46

思いが通じると良いですね

ふしじろ もひと

2021年 06月04日 01:59

もも様こんばんは。
けれど思いってなかなか通じないんですよね。相手が人間の場合でも……。

ひとちゃん

2021年 06月04日 11:43

こちらに、語られてるように
私も同感ですね、そう思う
いやーそう思いたいです!

ふしじろ もひと

2021年 06月05日 08:56

ひとちゃん様おはようございます。

なにしろ怪獣が出てくるという時点で広い意味でのファンタジーに属するお話ですから、ハッピーエンドで終わっていけない理由はないといえばないのですが、まだ戦後10年たっていなかった初代ゴジラに反映した戦争の影がしだいに忘れられてゆく過程がいわばゴジラ映画の歴史でもあったわけですから、戦争のイメージをいま一度ゴジラに仮託してみたかったというのがそもそもこの話を書き始めた動機という事情もありまして……。

ひとちゃん

2021年 06月27日 17:28

>ふしじろ もひとさん
どうも、戦争とゴジラ 水爆核兵器とゴジラ~
旧ガメラも似てるとこ、あるような感じもします?

私は深く考えたこと、なかったので、そのままありのまま
単純に映画を楽しんでいました。見る角度 思う角度?さまざま在りますね、とにかく昭和のゴジラから迫力もあり、楽しいです。宇宙人、宇宙怪獣出現 侵略編等。

ちょいここ最近見てましたよ公害から生まれた大きな、おたまじゃくし!これが公害怪獣のへドラに変身したりとw沖縄の守り神 キングシーサーが島民の為に宇宙怪獣と戦ってくれたり!怪獣はほんまにロマンです、また新しい怪獣を書けたらいいですねヽ(^o^)丿

ふしじろ もひと

2021年 06月28日 04:13

ひとちゃん様こんばんは。

ガメラは各種のエネルギーをそのまま取り込める上に例のジェット噴射方式で空まで飛べてしまいますから、むしろ戦争や核兵器との結びつきをあまり表に出しすぎないことを意識したデザインコンセプトのようにも感じています。とはいえいろんな要素を持たせることもできるのは、やはり「怪獣」ならではの醍醐味ですね。

ひとちゃん

2021年 07月10日 23:31

>ふしじろ もひとさん
こんばんわ、もうこの際
怪獣ひゃか事典なるものも嬉しいです
ゴジラもガメラもみんな楽しい。

私なんか、うろ覚え王で?ギャオスがバルゴンより
先に放映されたみたいなコメント書いたら笑
叩かれちゃった!!笑 でもファンタジーありますよ(^^ゞ

余談ですが、ドンキやデパートは先に怪獣のソフビ
見にいきますもん笑 小さな幸せですよ♪

ふしじろ もひと

2021年 07月11日 13:08

ひとちゃん様どうもです。

『ガメラ対バルゴン』はなにを隠そう、僕が初めて映画館に連れて行ってもらった怪獣映画だったのですが、とにかくインパクトありました。自宅のテレビがまだ白黒だったので初めてカラーで観た怪獣映画だったところにきて真っ暗な夜空を大きく横切る虹色光線でしたし、ゴジラやウルトラシリーズにはなかった人間が怪獣に食われる場面も真正面から出てきましたし(昭和ガメラで子供が出てこない唯一の作品だったことに気づいたのはずいぶん後のことでしたけれど)

少したつと子供向けの怪獣ウンチク本もいろいろ出てきて、本当に楽しかったですよねぇ(しみじみ)

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