御覧の通りのものである。小林博士の「介護負担がなくなり、園児たちの兄弟姉妹の結婚が増えた」の証言を基にかいた章である。何も身障室に限らず、知的障碍室でも、重複障碍室でもかなり見られた結婚例である。最初は二人を同年齢にして書いたが、障碍児者を兄弟姉妹に持つ人たちの結婚難を描くため、「姉」を当時としては晩婚だった30歳に設定した。そうなると、妹とは15歳くらい離れていた事になるが、当時としては珍しくなった。初代・若乃花と貴乃花は兄弟だったが、20歳くらい離れていた。その事も参考にしたわけである。
二人を祝福する牧師の気持ちはどうかな?と察しながら書いた。別に聖書は参考にせず。それで良かったと思う。祝福の気持ちは聖書以前だと思われるし。
後半は結婚に取り残される人たちを淡々と描いた。今の読者たちの中には結婚制度の矛盾についても感じる人たちも多いかもしれないが、当時は非常な天才頭脳を持つ者以外は、誰も結婚制度に疑問は持たなかった。疑問を持つ人は、10万人に1人くらいだったと思われる。それゆえ、その件は原則としては述べない事にする。ただし、かなり後になるが、天才頭脳を持つ人が「結婚制度を潰さないと島田も、福祉も良くならない」と絶叫したので、それは少しだけ入れたい。
結婚に取り残された人には違いないが、まだ14歳だった野口栄一君はあのように。彼は優しい性格でもあった。姉がいたと聞いている。彼の人格を再現できて良かった。最初、「野口栄一君」とうっかり書いてしまった。それだけ僕から見て親友視しているためだろう。
「身障室」に設定したのは、今後の展開につなげるためである。その話も呼び水になり、成人した身障園生の結婚願望は強まり、やがて書く事につながるわけである。
最後に、話を戻し、「自分の妹のように思い、結婚への引き金の一つになる」。多磨全生園のおばあさん元患者の伊藤まつさんに、引き込まれるように「本当のおばあちゃんだと思うから、孫と思って下さい」と述べた経験も含まれていたわけです。何気ない事ですが、こんな形で伊藤まつさんの魂も使わさせていただきました。