*重なる絶叫
「いや。ゴジラに、最悪の、ゴジラに、だけ、あぁっ」
登りゆく変異を引き下ろそうというのか、ゴジラ化した上腕の爪で喉を掻きむしる英理加。たちまち吹き出す緑の血はビオランテのものか、それもゴジラ化の証なのか。
もう時間がない! だが、ヘルメットのスイッチにかけた指はびくとも動かない。撃つことなどできないとの思いは単に機龍のものであるにとどまらず、まぎれもなく省次自身のものでもあるのだ。機龍の意志のみならず、己が本心をも引き剥がさねば動くはずなき指一本。だが一つに溶け合い倍加した思いはちっぽけな指など封殺している。身動きできぬ焦りも機龍と己の思いにじわじわ沈みゆこうとするそのとき、切れ切れの声がまたも届く。
「なぜ……、こんなこと、に、なった、の? 離散、だけでも、免れ、てたら、違う、形で、出会えたの、かしら。この子や、君と……っ」
ああ、救わねばならなかったはずの人と自分は手遅れの形でしか出会えなかった。けれどここでその人の最期の願いを聞けずして、この先自分に何ができる? 誰を助けられるというのか! その思いに辛くも自我を奮い立たせ、巌のごとき圧力をかいくぐり遂に若者の指はスイッチを押す!
たちまち開きゆく機龍胸部の3枚のカバー! しかしヘルメットを介した機龍の中のゴジラの意識に驚愕と焦りが満ちた瞬間、開きかけたカバーの動きが止まり閉じようとし始める。手動優位のはずのシステムに逆らってまで砲門を閉ざそうとする機龍の、ゴジラの意志のなんたる凄まじさ! 負けじと念を込め省次もスイッチを何度も押し直し、そのたびに開こうと、閉じようとする砲門カバー。
するとヘルメットのスクリーンを兼ねたバイザーに一つの光点が、文字が浮かぶ。ただ一字だけが、「子」との字が! 驚愕のあまり省次の意識からその字以外の全てが消え失せる!
子? あのゴジラが機龍の? だから彼らはあれほど互いをとの思いに全身を稲妻のごとく撃ち抜かれ、身動きどころか呼吸すら封じられる省次。次の瞬間、造った本人ゆえ思い至る。これは叫びだ、声を与えられなかったものの絶叫だと。機械の体に発声機能抜きで封じられた魂魄に唯一残された叫びの形なのだと! それほど貶めた当の相手に、これほど深き思いを持つ生き物に自分は子殺しを強いている! それらの思いが撃ち抜かれた胸から全身を走り、意志を瓦解させんとするそのとき、さらなる絶叫が耳を貫く!
「お願い! 私を、私たちをゴジラにさせないでーーっ!!」
バイザーの字越しに向けた視線が叫ぶ英理加の、首から顎へと上らんとする黒き浸食を捉えた瞬間、せめぎ合う思いの大渦から迸る省次の叫び! 言葉の形を取り得なかった獣のごとき咆哮が先行した2つに重なると同時に、半閉じのカバーを吹き飛ばしついに発射される冷線砲! それが一つに絡んだ二体の巨獣に着弾するや連山のごとき塊が湾内の海ごと白一色に染まったとたん、真っ白なまま砕け散る!
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コメント
もも
2021年 04月11日 08:36
続きが楽しみです
ふしじろ もひと
2021年 04月11日 09:33
もも様おはようございます。
ここからが最大の難所になります(汗)
ひとちゃん
2021年 04月11日 13:45
ビオランテ?暗い霧の中に包まれ。
海の上に立つ、なんとも不気味で
美しい巨体の怪獣!!
そんな印象が今でも残っています♪
これからが本格的な戦いになりますねヽ(^o^)丿
ふしじろ もひと
2021年 04月11日 15:26
ひとちゃん様こんにちは。
怪獣同士の戦いは決着がついたのですが、
あとは人間が機龍とどう決着をつけるか。
そこがとっても難所なのです(大汗)