「いきなり人類愛」はムリである。僕の経験から話そう。１９７７年７月、その会で全生園合宿したわけだが、全生園を知る為に必要である園長の話の時、僕は隣に座った人と雑談ばかりして、ろくに聞かなかった。患者自治会の人たちの話も同様である。もし、当時の僕に「人類愛」があれば、園長なども含むから当然話を一生懸命聞くはずなのに。おかげで、今でも全生園の事は伊藤まつさん関係しか話せないし、知らないわけである。まつさんも天国に行ったから、今更全生園に行って、知りたいとも思わないわけである。雑談した相手たちも同じだった。僕・彼らと「医者でもない我々が何故ハンセン氏病啓蒙しないといけないのか、判らない」と役員に不満を持っていた。「人類愛」をストレートに持てれば、このような不満も起きないわけだが。
　　全生園の他にも、たくさんの活動場があった。島田療育園は言うまでもないし、高島平子供会、墨田区の身障作業所、下町地区の盲学校、国学院大学内の手話会と。一つの会が多くの活動場所を持つ事は普通はあり得ず、今思うと、その理念が影響していたせいだったと思う。理念書を読むだけならば観念的な理解に終わるだけかもしれないが、複数の活動をして、しかも、その話し合いもして、文集にも書く。洗脳効果みたいにもなり、その理念は会員の精神に染み込むわけである。


　　実際にはキリスト教信仰と矛盾しているので、その信仰を持つ方は（たとえ旧約聖書は読んでいない人でも）精神の土台をまともに破壊する。カトリック信徒たちに後年の挫折が多く、一人は一時精神病にかかった。僕も変に思い、心配もしたわけである。何の信仰を持たない人たちも精神は破壊された例が多い。人と付き合えなくなったり、複数の放浪者も出た。彼らも精神病も疑われる。精神病は自覚症状がないから気が付きにくく、はっきりしない点が厄介だが。無論、非婚例もかなりある。精神が破壊されれば、結婚どころではないだろうに。人類愛どころか、実際には恋愛も、友愛も生まれなかったわけである。福祉カルトというべきものであった。特定の教祖がいないだけ、オウム真理教よりも厄介だったと思う。こう言っている僕も、やっと以上を語れるまでになった。「精神が破壊」の状態では語れないわけだから。僕もかなり精神が破壊されていたかもしれない。

　　例の教会関係は戦争奉仕やレイプの問題があるし、教会組織＝神はまさにカルトだが、以上は「聖書や仏典を超える」という事が。次元が違う問題だから、どっちがひどいかは言えないが、例の教会関係とは違った、根が深い問題があったと気が付く次第です。かつての会のコンパなどで「キリスト教も、仏教も、マルクス主義も古い。新しい思想を生み出さないと」の声が思い出されます。非常におかしかった。

　　神というより、それ以前に「祈り」のない友人関係や恋愛は不可能だし、何かの社会活動はもっと不可能です。しかも続かない。文を書こうとしても、抽象論ばかりになり、誰にも理解されなくなるわけですね。

　　　僕の全生園や島田訪問も、本来ならばムダになる所でした。でも、島田は野口栄一君という気が合う園生がいて、親友にもなれたから多くの事をみてきて、小説に書けるまでになっています。全生園も、伊藤まつさん関係と制限付きながらも鮮明に記憶でき、随筆ならば書ける。どちらも行ってよかった。あと、高島平子供会。僕が行った時は、そこは人類愛や社会変革を唱えなかったからよかったわけです。その社会変革も、祈り抜きではしてはいけないと今の僕は思いますが。人間はいつの世でも祈りなしでは生きられない。社会活動や恋愛どころか、友人にもなれませんよね。

　　最後に「いきなり人類愛」しろ、「教会＝神」にしろ、人間中心の考え方が作り出したものです。傲慢そのものの。そこが根本的におかしいわけですね。まさに、戦争にも、コロナや飢饉にも通じている。資本主義とか。その現れの２つを僕も見てきたわけです。