*打ち捨てられた名
「ばかな! こんな植物にゴジラが倒せるもんですか!」
「見た目だけで判断しないほうがいいわよ。この子はゴジラだけじゃない、君の作ったあの冷線砲を積んだ人形にも決して負けることはないんだから」
自信たっぷりの言葉に思わず巨大な芽を振り返る若者の手に、女が一枚の紙を渡す。
「これは返しておくわ。連絡先まで載ってるし」
機龍の開発者名簿だった。これを見て連絡してきたのだと省次は悟った。
「山川が置いていったものよ、君の名前を出して協力するよう仕向けようとしたときに。このメンバーなら私の研究は湯原教授に渡されたのね」
「知らなかったんです、先生も。まさかこんなことになっていたなんて……」
呻くように呟いた省次を相手はしばし無言で見つめていたが、やがて顔をそむけ廊下への扉を開け帰るよう促しつつ告げる。
「私の方が君の名前を知ってるだけなのも変だから、一応教えておくわ。私の名前は白神英理加だった。もう私には意味などないものになってしまったし、じきに君もそんな名前で私を呼んだりしなくなると思うけど……」
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外へ出てはじめて、省次は門柱に表札を剥がした痕があるのに気づいた。暮れ始めた空のもと長い一本道を下る間も、胸の中はやりきれぬ思いでいっぱいだった。山川からプロジェクトに誘われた時にはそれが成功すればきっと自分たちも救われると思ったから参加したのに、現実にはそれが原因でこんな事態まで招いてしまった。気づけなかった自分が許せなかった。
だが機龍は既に完成し、特殊部隊の管理下に移っている。操縦者として関わることはあっても、もはや自分の一存ではどうにもできない。それが対ゴジラ兵器の枠を超えたものとして扱われるであろうことすら見抜けぬまま引き渡してしまったとの思いもあいまって、宵闇に翳りゆく空よりなお昏い思いに心は沈むばかりだった。
ようやく町外れまで戻ったそのとき、車が猛スピードで走ってくると降りてきたばかりの一本道を登っていった。見上げた丘の上に微かな残光に溶けゆく洋館の屋根を認めたとたん悪しき予感は確信に転じ、若者は踵を返すや必死に坂の上へと駆け戻り始めた!
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コメント
もも
2020年 10月26日 00:18
狙われましたね
ふしじろ もひと
2020年 10月26日 02:50
もも様こんばんは。
相手の状況も知らずに狙ったりすると……(汗)
もも
2020年 10月26日 10:47
なるほど・・・
そうですね
ふしじろ もひと
2020年 10月26日 18:28
そんなわけで、次回はちょっとした惨劇です(大汗)