*全てを終わりにするために
「わかってはいたわ、この子だって奴らの因子を受け継いでいることぐらい。でも、男に違いないと決めつけていたのがそうじゃなかったことは、自分の似姿を殴り殺したことは想像もつかないショックだった。産声の上がることのなかった沈黙が惨めな私にのしかかり、無限の孤独に呑まれそうだった。冷たくなり始める小さな娘に縋りつき組織を培養し始めてやっと、自分がどうするべきなのかに気がまわったほど……」
沈黙が続いてようやく、省次は相手が自分に答えさせる気だと悟った。聞こえたのは自分のものとは思えぬ掠れ声だった。
「……奴らの因子と置き換えたんですか? 植物と、まさかゴジラの因子に?」
「人間と植物だけではまとまらないけれど、古代生物をゴジラに変貌させた因子は異質なものを融合させる力がある。書類なんか全て奪われようと、私の頭には残っているのよ。君だって同じでしょ?」
「なんてことを! だからこんな姿になったんですか? あなたならその子を人間にだってできたはずじゃないですか!」
「こんな社会で、国で、ただの女の子として育てろというの? いつ私みたいな目に遭わされてもおかしくないのよ。君、なにも解ってないじゃない!」
刃のごとき絶叫に撃ち抜かれた衝撃に、若者はようやくかいま見た。共有され得ぬものを独り抱えた女の底知れぬ絶望を。
「……私たちが人間扱いされない以上、人間でいることになんの意味があるというの? この子に植物の因子を与えたのは、光と水さえあればどこででも生きていけるようにするためよ。全てが終われば、私たちは人間なんか見ずにすむアマゾンの奥地にでも行くの。長い長い歳月の果てに森とひとつになるために……」
もはや訊ねる必要などなかった。彼女は死なせた娘と同様の措置を自分の身にも施しているのだ。そんないたたまれない思いを見抜いたのか、相手が再び話し始める。
「私はこの子の培養液に滲み出た因子をもらっているの。最後は同じものになるとしても、今はまだこの子を助けるためにすべきことも残ってるから。この子と一緒にゴジラを倒すために」
驚愕に見開くその眼前に、指を突きつけ女は叫ぶ。
「そんな覚悟でゴジラを倒せるわけがないわ! この国の誰も、ゴジラを直接憎む意気地なんか持ってなかったじゃない。だから見せつけてあげるのよ。私たちが全てを終わらせるのを!」
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コメント
もも
2020年 10月23日 05:33
可愛そうですね
ふしじろ もひと
2020年 10月24日 11:28
もも様こんにちは。
こんな話ですみません(汗)