*邂逅
たどり着いたのは古びた洋館だった。天頂から降り注ぐ陽光の下でさえ、澱むような影が建物にこびりついているようだった。固唾を呑みつつ押した呼び鈴にも応えはなく、帰ったほうがとの思いがきざしたとたん扉が開いた。歩み出た相手の姿に省次は瞠目した。
白衣を着た女だった。自分より少し年上に見えた。そして射抜くように睨むその顔には、紛れなき芹沢一族の面影があった!
省次を玄関に引き込んだとたん、女は鞄をひったくるや中身を廊下にぶちまけ、抗議しようとした省次の眼前に拾った物を突きつけた。白手袋の手が掴む盗聴器に絶句した若者に、それを叩きつけ踏みつぶした女がようやく口を開いた。
「監視されてることも知らなかったの?」
そのまま奥へと進む背に、気を呑まれた省次はついていくことしかできなかった。
突き当たりは研究室だった。大きな机の上は数多の実験器具が所狭しと並べられ、壁際には本棚が作り付けられていた。けれどそのうち二段分にはなにも置かれていなかった。そんな光景を、天井の半ばを占める広い天窓から差し込む陽光がくまなく照らし出していた。
机の傍らには大きな植木鉢があって、天井につかえそうなほど伸びた未知の植物が植えられていた。それだけの大きさでありながら、植物に関しては門外漢の省次にさえ芽としか見えぬ形状をそれは呈していた。獣皮めいたものに覆われた太い茎へと思わず伸ばした手を、いきなり鷲掴みした女が引き戻す。
「触らないで!」
その叫びは、けれど省次の耳に届いていなかった。彼の目は、白衣の袖と手袋の間から覗く緑色の獣皮めいた手首に釘付けだった。気づいて手を離し後じさる女に、やっとのことで呼びかける省次。
「その手は……、あなたは……」
しばし蒼白のまま壁際で立ち尽くしていた女が、ついに震える唇を引き結ぶや絶叫する。
「そうよ、私がこの子を産んだのよ!」
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コメント
もも
2020年 10月17日 07:18
植物なんですか?
ふしじろ もひと
2020年 10月17日 08:28
もも様おはようございます。
ビオランテは映画と同じく、人間の細胞にゴジラと植物の細胞を混ぜ合わせたため生まれた怪獣です。ただ映画では研究室のゴジラ細胞を狙って押し入った多国籍エージェントに殺された白神博士の娘英理加の細胞が博士の手でバラに移植され、そのバラが枯れそうになったことに焦った博士がゴジラ細胞を加えたという経緯だったのですが……(汗)
ふしじろ もひと
2020年 10月17日 08:32
それが語られる次の回をいま書いているところなので、ここからは毎日のアップは難しいかもしれません(大汗)
もも
2020年 10月18日 11:35
了解で~す