＜怪獣と化した人類たち＞

　アニゴジ３部作は予想どおり、『シン・ゴジラ』とは対照的な不人気のまま第３作『星を喰う者』で完結し、その後ハリウッドから今世紀に入ってからのシリーズ２作目となる『King of Monsters』の公開もあって、今では少なくとも一般層からはほとんど忘れ去られたような状態になっています。けれど平成の時代が終わった今、アニゴジ３部作を３つで１つと数えるならばハリウッドの２作と日本の２作という合計４作の２０１０年代に作られたゴジラ映画を見比べたとき、少なくとも僕はアニゴジで描かれた地球人にエクシフおよびビルサルドという２種のヒューマノイドタイプの異星人たちを加えた３種類の「人類たち」のまるで容赦ない描き方のインパクトの大きさにいまだに入れ込んでいる始末です。
　第１作の時点ですでに、彼らはワープ航法に由来する２万年もの時のずれを超えて地球にやってきた侵略者としての振る舞いを見せつけていたわけですが、第２作ではメカゴジラを作ったビルサルドたちがゴジラの猛攻に生身のままでは耐えられぬ自分たちを（しかも彼らだけではなく、彼らが仲間とみなす他の２種族をも含めて）生きたまま金属化させて戦い抜こうとする姿にまでエスカレートし、それを受け入れられぬ主人公ハルオは１作目での熾烈な戦いを共にした彼らを自らの手で殲滅することを強いられたあげく、自身を慕って行動を共にしてきたユウコを救うこともできなかったのでした。すでに１作目の時点でさえ膨大な犠牲を免れなかった戦いに続くこの展開に、ハルオも含め地球人たちは完全に戦意を挫かれたのでしたが、そのとき独自の信仰を支えに温和かつ冷静な種族として振る舞い続けてきたエクシフが本性を露わにするというのがこの完結編というわけです。

　第２作のラストで彼らエクシフの母星もまた怪獣に滅ぼされたこと、その怪獣の名がギドラであることが告げられていたわけですが、彼らはその科学力に基づく未来予測の結果、文明を発達させた種族は母星の自然環境を激変させずにはおれず、そのことで不可避的に怪獣を生み出し自らの種族を滅亡へと導いてしまうと悟ってしまった種族なのでした。そして自らの予測の実現を目の当たりにした彼らのうち、あらゆる文明の末路へ自分たちが到達したことを示したギドラを神として崇めた者たちがギドラの神官として宇宙を放浪し、数多の文明を終結へと導きギドラへ供物に捧げてきた。そのリーダーこそ終始ハルオに寄り添い心の支えとさえなっていたメトフィエス（メフィストを連想させずにおかぬ名前です）だったというのがこの最終話の展開なのです。
　ハリウッドの２作がゴジラを昭和シリーズの後半のような人間の味方と呼べる存在に描いていたこと、『シン・ゴジラ』ではゴジラが人間の脅威である一方、それに立ち向かう人間が決して否定的に描かれることがなかったことがヒットに繋がっていたことを思えば、それらのあえて逆を行ったも同然のアニゴジシリーズに人気が出なかったのは当然としかいいようのないことですが、初代『ゴジラ』が不完全ながらも提示していた「人間こそ怪獣を生み出す存在であり、怪獣として振る舞う存在でもある」というモチーフを最後まで貫き通したシビアさに僕はただ痺れるばかりです（汗）

　そんな３部作の完結編たるこの『星を喰う者』では、ハルオは異次元に実体を置きつつもメトフィエスの目を窓としてこの次元を認識し喰らいうるギドラになすすべもないゴジラを前に、限りない憎しみの対象であったゴジラの力を発揮させるためメトフィエスを倒すしかないところへ追い詰められてしまいます。そして力を失ったギドラをゴジラが退けた結果、彼もまたゴジラが君臨する地球の在り方を受け入れるしかなくなってしまいました。
　だからハルオはモスラの卵を崇めつつ地下で細々と命脈を保ち続けてきた人類の末裔フツア族に一握りしか残らなかった仲間と身を寄せ、一度は彼らと共に生きていこうとするのですが、そのときビルサルドが残した戦闘機の起動に仲間の科学者が成功し、それが再び文明を取り戻す手立てとなることを告げられます。
　それはまたもや人類が怪獣を生み出した果てに滅亡する道への入口にほかならぬものでした。だからハルオは戦闘機にビルサルドに半ば金属化され脳死状態のままのユウコと乗り込み、数多の仲間たちを死なせた自らの処断も兼ねるかのように正面から挑みかかった結果、ゴジラの熱線に直撃されて果てたのでした。
　このラストは初代『ゴジラ』で生きて戻らぬ決意を胸にゴジラの潜む海へと災いを招きかねぬ超兵器もろとも消えていった芹沢博士の「特攻」そっくりですが、ここで成し遂げられたのは目の前のゴジラの抹殺ではなく、すでに怪獣の存在する環境への適応を余儀なくされた人類の末裔フツア族と僅かに残った仲間たちに滅亡への道を辿らせないことなのでした。この３部作の中でただ一度ハルオが見せた笑みがゴジラに撃ち落とされる瞬間だったというのが掻き立てたなんともいえぬ思いは忘れようのないものでしたが、同時に僕はここでは２万年前の時空から姿を現した文明種族たちがもはや自らの時代に出現できなかったため滅亡を余儀なくされるという、かつてのゴジラの立場に置かれた物語だったのだとも痛感したのでした（この点に関して言い添えておきたいのがフツア族の姿です。モスラの卵を奉じて生きる彼らはモスラの因子をなんらかの形で与えられることで傷などへの強い回復力を備えた鱗粉を自ら生成するようになり、今では前髪の部位に蛾の触覚まで備えるに至っていて、肉体面でも怪獣の世界となった地球の環境に適応していることを示すことで、宇宙服を着こんでいないと地上の大気にも対応できぬ３種族が過去の時代の存在であることを際立たせる作りにもなっています）
　そしてエンドロールの果てに流れたその後のフツア族の厄除けの祭りの場面では、ハルオが乗った戦闘機を模した被り物を身に着けて舞うフツアたちがハルオを「お怒り様」と名づけ守り神と見なしつつ生きてゆくことが示唆されるのですが、こんな結末を見せるゴジラシリーズはおそらく二度と出てこないでしょう。ゴジラシリーズではゴジラが死ぬという結末が『ゴジラｖｓデストロイア』まで回避され続けてきた歴史がありましたが、ここまで人類が叩きのめされる結末はそれ以上の長きに渡ってなかったのでしたから。それでもここでのハルオの死はそれによって文明の発達が怪獣を生み出し人類の滅亡に繋がるという宿命への抵抗としての意義はあるものとして描かれただけマシというか優しいというか、そういうものにはなりえていたようにも感じるのです。それがなければこの連作は、エンタメの領域から完全に逸脱していたかもしれません。

　だからこそ僕は、アニゴジさえ回避したまるで救いのない話を考えてみたいなどという思いに取り憑かれるハメにもなったわけなのです。そんなわけで次回からは、そのためのアイデアメモをまだまだ断片的なものながらご紹介してみようなどと思っている次第です（大汗）


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