”ソラ、どうしたんだねーちゃんは? えらく涙もろいじゃねえか”
”……よくわからない。けど、なにか思い出があるのかも”
”辛い、のか?”
”でも、大丈夫だよ。きっと……”
子供たちの攻勢にとまどいつつも嬉しそうにしているその様子を、感慨深げに見守る1つの体の若者たち。
一方、そんなデリカシーなど無関係に目の色を変えて食いまくるポンポス星人たちのテーブルでは、もの凄いとしかいいようのない飲みっぷり食いっぷりにさすがのタカフミも絶句している。そんな5人のところへヒロコがビール瓶片手にやってくる。
「あの、誤解しててごめんなさい。これ……」
「あ、おかわりキター!」「ささ、お近づきの印に」「遠慮なんかダメじゃん。タダよタダ!」「オレの酒が呑めねえとはいわせんぞ!」
あっという間に引っ張り込むと、酌をさせるわコップ持たせて注ぐわの自覚なき酔っぱらい侵略者軍団に呆れ返るサヤ。
「しかも人の話ぜんっぜん聞いてないし!」
「まあこの場合、知らぬが仏かもしれんがの……」
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”じゃあ、また別の宇宙へいくのかよ”
”ええ、逃げたビーストは他にもいるから……”
宴の後、うとうとしているテラを肩にもたれさせているソラの中のゼロと思念を交わすヒロコ。半ば照明を落としたカナリーに残っているのは、別のテーブルから3人を見守るワイルド・セブンの面々だけだ。子供たちは帰っていったし、酔い潰れて眠ってしまった侵略者たちも休戦中とはいえ放置もできず、警護班が苦労して留置場に運んでいったばかりだ。
”大変だな。オレにはそうしかいえねえが”
”ありがとう。……本当は私、絶望しかけていたの。ビーストを全て倒しても、私に憑いたビーストはどうにもできないと思っていたから。でも”
”でも?”
視線をグラスから、隣の青年の顔に移す女。
”今はなんだか、自分の道を歩き続ければどこかに行けるような気がしてる。私も、こいつも、少しずつ変わっていけるんじゃないかって……”
語る相手の黒い瞳に宿る光を見つめつつ、ふと自分たちの旅路の果てに思いを馳せる異なる種族の若者たち。そのとき背後から真柴リーダーが呼びかける。
「いいムードで黙っているのに悪いけど、そういえば名前をまだ教えてもらってなかったわね」
「え、でも……」
虚を突かれた表情の相手に微笑みかけるアリーナの主。
「あなた、お兄さんや弟さんにいわれてたでしょ。嘘をつくのが下手だって」
目を見開いたその顔がたちまち真っ赤になるのを見て、はげますように思念を送るゼロ。
”ねーちゃん。あんたはあんただ。どこへ行っても、何があっても”
ゼロの言葉にソラもうなづく。うなづき返したその顔の、赤い唇が微笑み、開く。
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「欲しかったね、ヨウコさんみたいなお姉さん」
宴の一夜が明けた基地。登る朝日に照らし出された付属病院の壁が、まばゆいばかりに映えている。その屋上の欄干にもたれ、ソラはテラと輝く青空を見上げていた。
チームの仲間たちはアリーナへ帰っていった。本来ソラは勤務だったが、人情家のタカフミが退院日ぐらい弟の側にいてやらんかいと半ば強引に交代を申し出たのだった。
別れの言葉を交わしあった後、アリーナの敷地の開けた場所へ歩み去るヨウコ。遠ざかった後ろ姿が腕をゆっくり左右に広げて立ち止まると、吹き出す闇と光が螺旋状にもつれ合いつつ立ち昇る中から再び細身の鬼の後ろ姿が現れる。星影が薄れ始めた空を見上げ、振り返るその顔に目を見張る一同。
黒一色だった阿修羅の目に光が宿っていた。ゼロよりはむしろメビウスに似た、白い光をたたえた楕円形の目に、見上げる者はみな、彼女の世界にいるという見知らぬ光の巨人の面影をなぜか想わずにいられなかった。
やがてその背から、明けゆく空に溶け込むような大きな紫色の翼を広げ、ゆっくりと地上から浮かび上がる黒一色の異形。だがその様子に感じ取れるなにか誇らしさめいたものが、闇に属するその身に気高さと底光りするような美しさを添えていた。それが帰天してゆく光宿す闇の化身を見送る一同に、怪物としか思えなかったその姿自体の美にも目を開かせるのだった、巨大な力が内的に引き締められた調和の美。内なる光が照らし出したそれは、貪欲のままに肥大化したビーストエレキングには決して見られぬものだった。
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テラはいつか君の姿を描くだろう。それはきっと俺たち兄弟の写真を望まずにはいられなかった君の心を映すだろう。弟の肩に手を置きながら、ソラは天空の彼方に旅立った異形の女神にそう語りかけるのだった。
Fin ?
朝日の射し込むカナリーの食堂で、あまりの騒がしさに夜勤明けの隊員たちの大顰蹙を買いつつ朝餉の真っ最中のポンポス星人5人組。そこへタカフミとサヤを連れて上機嫌でやってきた真柴リーダーが、天使のような笑顔で声をかける。
「あ~らみんな、お元気そうね」
その笑顔に、貧弱きわまりない学習能力にもかかわらず刻まれずにいなかった恐るべき記憶にギクリとする宇宙人たち。そんな様子になどおかまいなく、用件を切り出そうとする女隊長。
「あなたたちに、実は」
たちまち上がる悲鳴また悲鳴! けつまづいたテーブルが料理ごと倒れる惨状の中、5人の逃げ足速き侵略者たちは我先にとカナリーから逃げ出してゆく!
「ひぇー! またお願いされるっ」「助けてえぇーー……」
ポケットから取り出しかけたチケットを手に、きょとんとした顔でつぶやく真柴リーダー。
「なんなの? せっかく約束のドリンクとデザート券持ってきてあげたのに……」
その後ろで、こそこそ耳打ちする2人の部下。
「……ないみたいね、自覚」
「……ほんまもんの、鬼や」
Fin !
コメント
ふしじろ もひと
2020年 08月12日 21:34
僕の担当した回はこれがラストですが、最後にAさんが書かれたエンドロールによってこのリレーは幕となります。
もも
2020年 08月13日 03:00
わかりましたー
もっさん
2020年 08月13日 09:03
「ほんまもんの鬼」は身近なところにいましたね。(笑)
またどこかでこの5人組に会えたらいいなぁ。。。
ふしじろ もひと
2020年 08月13日 21:54
もっさん様こんばんは。彼らはもちろん今夜アップするAさんのエンドロールでもトリを飾っているのですが、今回よりいっそう出番の多いリレー作品『史上最低の侵略』も完結しておりますので、ゴジラならぬ誤字退治の後にはいずれお目にかけたく思っております♪